プラントの鼓動


「大丈夫か?」
「……大丈夫、です」
「平気なようには見えないが?」

ドックで、修復され、最終調整に入ったローズシリーズを眺めるルナマリアに、ヤナックとルタが声をかけた。
どうやら相当、落ち込んでいるように見えたらしい。
実際――彼女はかなり落ち込んでいるが。

「気持ちの整理、つかないか?」
「そんなんじゃありません。ただ……なんであいつ、一言も無く出てっちゃったのかなー……って」

寂しそうに呻くと、ルナマリアは手すりに自分の額をつけた。
ひんやり伝わる鉄の冷気。心地良い冷たさは、熱を帯びそうになるルナマリアの心に、冷静さを与えてくれる。

「シン・アスカ、か」
「混乱してたんだと、思うんです」

今のルナマリアに、シンが当初、どこまで知っていたかを知るすべは無い。ただ、もし現在の自分のように、全てを突然――前触れ無く知らされたら、一体どう思うのか。


「シン……メイリンやアスランに、負い目を感じてたみたいで……この間まで、いなくなった原因は、これだけだと思ってたんです」


ルナマリアは、静かに話し始めた。
自分の気持ち。自分がそれまで思っていたこと。
こうだ、と信じていたこと。


「シンを責めました。私や……シンのこと、大好きな人たちのこと、全然考えてくれなかったんだ……って。けど……それだけじゃなかった」


静かに。
ただ静かに。
悔やんで悔やんで仕方ない――



「相談して……くれなかった」



瞳に涙が溜まっていく。



「結局、シンにとって……私って、こんな話も出来ないような人間だったのかな……なんて、思っちゃって……」
「君は本当に、彼を大事に思ってるんだね」


よしよし、とルナマリアの頭を撫でるのは、ヤナック。


「……人間は、追い込まれれば追い込まれるほど、他人のことを考えられなくなる」


ヤナックと共にルナマリアを挟む形で、ルタも彼女の横に立った。


「当時のシン・アスカはよほど追い込まれていたんだろう。普段通りの判断が出来ないこともまた、当たり前のことだ」
「だから、君がシン・アスカを見つけてやらないとね」
「……はい」

ルナマリアが頷いた、まさにその時、


「おおーい、そこの三人組―ッ! ジュール隊長が呼んでるぞーっ!!」


整備班から、呼び出しの伝令が届いた。




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