プラントの鼓動


「いっぱい、たくさん、人を……傷つけて……」
「戦争なら、仕方ないんじゃないの?」
「……敵、だけじゃないんです。俺、自分の仲間も、傷つけたんです」

膝の上で、ぎゅっと拳を握って。

「俺……メイリンとアスランを殺そうとした。仲間だったのに……裏切ったからって、上から命令されて……二人を殺そうとした。それに、ルナも……。ルナは、止めようとしただけだったのに、俺……もう少しで、ルナのこと……」


思い出すだけで、全身が冷たくなる。
あれは、恐怖以外の何者でもなかった。最後まで自分の傍で、自分を守ってくれたルナマリアを……最高の理解者だった彼女を、彼はもう少しで手にかけるところだった。
もしアスランが割って入ってくれなかったら、確実に――


「俺、本当に勝手なことしてる」
「例えば?」
「何も言わずに、家……ってか、寮、出たんです」
「……そう」

目をそらし、ミリアリアはカフェオレを口に含んだ。

「戻らないの?」
「……戻れ、ない……です。……見つけなくちゃならない物も、あるし……」
「見つける……?」
「……それに……」

ミリアリアの問いかけには答えず、シンは続ける。



「……怖い、です」



少し、震えて。


「謝りたくて、家の傍までは行くけど……どうしても、足が止まっちゃって……」
「そっか。そうなんだ」

まるで安心したかのように、ミリアリアは微笑み、カップを置いて。
そして、驚くべきことを口にした。

「……じゃ、行こう!」
「は?」
「だから、メイリンやルナさんの所! アスラン・ザラは……まあ、まだ無理だろうけど、メイリン達は、居場所分かってるんだし。とりあえずあの二人にだけでも、謝っちゃおうよ。会って、謝って……心をすっきりさせてから、探し物、探そう?」
「だけど……」


シンは目を伏せる。
今まで、何度も何度も家の前に行った。
何度も何度も、謝ろうとした。
呼び鈴を鳴らそうとした。
いつもいつも、最後の一歩が踏み出せなかった。


「私も一緒に行くからさ、ね? 一緒に、謝りに行こうよ」


シンの頬に触れ、ミリアリアは囁く。


「だから……会いに行こう? ちゃんと、話せてないんでしょ?」
「…………」
「……守るから」
「まも、る?」

今出てくるには相応しくない言葉の出現に、シンは困惑の声をもらした。
けど、ミリアリアの態度は変わらず、

「守るよ。苦しくなったら、傍で支える。シン君が、今考えてること、メイリン達に言いたいこと、全部話せるように。
絶対に守るから。シン君の心」



何て力強い瞳だろう、と思う。
自分より、遥かに頼もしい女性。



もしかしたら――
もしかしたら、この人が一緒だったら、踏み出せなかった「最後の一歩」を地につける事が出来るかもしれない――



彼女の強さは、シンに勇気を与えた。





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