プラントの鼓動







その日は、午後二時から雨になると、天気予報で伝えられていた。プラントでの「天気予報」は、一応「予報」と名付けられているが、その実は「告知」に近い。天候は全てシステムで管理され、決まった時間に太陽光を注がせ、決まった時間に雲を生み出し、決まった時間に雨を降らせる。
地球の四季すらも、システムで完全に再現されているのだから、プラントにおいて、「天気予報」が外れることは、すなわち「システムの故障」を意味する。

今日は、雨の降る日だった。
周りの人間は、みんな傘を手にしている。

「そろそろ降りだすんじゃない?」
「まだ五分あるって」

雑踏から聞こえる会話を拾いながら、大通りに連なる商店街の壁に背を預けるシンは、その時初めて、雨が降る事を知った。

「傘……持ってないな……」

どうでも良い話のように、他人事のように、シンは呟く。


雨は、それから数分と経たずに降りだした。周りで傘が花開き始めても、シンは呆然と空を見上げるだけ。
顔に雨粒を受けながら、被っていた帽子だけ、ジャケットの下にしまって……

その時、不思議なことが起きた。
視界に予期せぬ影が生まれる。まるで頭の上を、何かが覆っているかのように。ほぼ同時に、雨も自分を濡らさなくなる。

「ああ、やっぱり君だった」

後ろから聞こえる声は、どこか懐かしさすら感じさせる、優しいもの。静かに振り返ると、一段低い所に、海色の瞳があった。


「どうしたの? 天気予報見なかった?」


シンは、驚くことしか出来なかった。目の前に、まるで姉のような微笑を浮かべ、自分を傘の下に入れてくれる女性がいる。
茶色の髪。以前に会った時と同じ服装で、同じカメラを首から下げて。

「もう……この一週間、君の事探し続けてたのよ? ちゃんとお礼が言いたくて」
「お、礼……?」

思考が追いつかず、シンは問い返すだけ。


「ええ、シン君。この間はありがとう。本当に、助かったわ」


シンを雨から守るのは、約一週間ほど前、公園で謎の集団に襲われたところを助けた女性――ミリアリアだった。





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