ザフト襲撃 頭の中が、真っ白になって。 『死』という単語で満たされて。 一瞬、メイリンの笑顔が見え―― 《――にやってんのよ、新人!!》 コックピットに響く割れんばかりの声に、ルナマリアはハッと顔を上げた。 目の前にあるのは、光――ではなくなっている。 紅の機体。 ルナマリアの乗る『ローズ・ザク・エルザ』の姉妹機『ローズ・ザク・レベッカ』のフォルム。 響く声の主は――シホ・ハーネンフースのもの。 「……どうして……」 シホはジュール隊所属。隊長他二名が、不穏な空気漂う格納庫へと急ぐ中、彼女は一人、念のため機体を戦艦・ボルテールへと移していた。 しかし、側にボルテールがある節は無い。また、他の隊員の姿も見えない。 答えは、シホ自ら語ってくれた。 《隊長達が徒歩で船まで戻るより、ボルテールを直接『港』に入れた方が早く合流出来そうって話になったの! で、向かってる最中に私一人降りた……それだけよ!》 シールドでサーベルを受ける、シホ操るレベッカ。しかし盾は軋み、強度が落ちていくさまが手に取るように分かる。 「ほら、早くルタの方へ!! 個別じゃ勝ち目は無いわ!」 手から盾を離すと、シホは思いっきりそれごとレジェンドを蹴りつけ、二機を相手にするルタの加勢へと向かった。 だが…… 「……反則、だろ……」 ビクトリアの中、ウーレスは呻いた。 ルタが相手にしているのは、ジャスティスとレジェンド――を模写したMS。要はレジェンドのコピーだろう。つまり、細部まで全部解析された、ということになる。 それもまずいが、この戦況もまずい。特に、操るのが困難とされているジャスティスを、たった数分でここまで使いこなされてしまうと……ルタの操縦技術はザフトでも上の方に入れることが可能だが、この二機を相手にするのは、非常に危険だ。防戦、いや攻撃を避けるので精一杯である。 これでジャスティスを完全に操られたら、一たまりも無い。 それはボルテールの中からも見て取れた。 「レジェンドだと?! てことはあいつら、例の海賊団か!」 出撃準備をしながら、イザークは怒鳴った。 戦況は極めて不利。早く――早く戦場に向かわなくては。 だが、彼らが宇宙に舞い戻ったその時、戦況は一変した。 これまで善戦してきたルナマリア――エルザの腕部がもぎ取られ、そして、援護に向かったレベッカに、正義の光が襲いかかる。 何者をも滅する、破滅の光が。 「!!」 鈍い音とともに、紅の機体に光が突き刺さる。 本人すら驚くほどの動きで、コックピット直撃だけは避けたが、操作するパネルから火花が飛び始めた。 そのためか、どんなに動かそうとも、レベッカは何の反応も見せない。 ――操作不能―― 「うっそでしょ……」 こんな時に。こんな大事な時に。 続いて襲いくるレジェンドの同型機を、シホは、成す術無く見つめるしかなかった。 「シホーーーーー!!」 響くのは、彼女を思う悲鳴。 宇宙に轟く悲しみの声。 そんな宇宙を、プラントから眺める少年がいた。 「…………」 深夜の帳の中、二つの月を眺めながら、赤い瞳の少年が佇んでいる。 それは、ルナマリアとメイリンの住む家。 夜の闇の中、彼は何度もインターホンに指を伸ばす。 しかし呼び鈴が鳴らされることは無く―― 「っ!!」 弾かれた様に、彼はその場を走り去った。 NEXT>>>PHASE4−プラントの鼓動 |