ザフト襲撃


「……一体、どこのどいつが、こんな真似を……」

軽く振舞っていたのは、事態が重過ぎるせいか、それとも、頭に浮かぶ最悪のケースを、部下やクルーに悟られないためか。

座標を確認するまでも無い。『賊』が使っている――とされる港は、あろうことか軍本部――例の『第11格納庫』と直結している。ゆえに彼らは直接船を乗り入れ、機体を奪っていけたのだ。
つまり。

つまり――賊と通じている人間が、軍の中にいる、ということ。
ただの『軍人』ではない。隊長クラスのウーレスやイザーク達すら知らない格納庫や港の存在を把握している人間など、ほんの一握りのお偉いさん達だけだ。

信じたくないが、外部犯のみの犯行とは考えにくい状況である。

「隊長! 不審船、発見しました」
「――おい、アスラン・ザラ!!」
《なんですか?!》

突然話しかけられ、通信機越しのアスランは、戸惑いの素振りを見せた。
一方ウーレスは、きっぱりと提言する。

「奪われたMS――奪い返せなさそうな場合は破壊、で良いな?」
《――はい》

彼の答えに迷いは無かった。
特に奪われた片割れ・ジャスティスは、兵器とはいえ、アスランの愛機として活躍した物だ。

「それを聞いて安心した。タンホイザー照準、目標、不審船!!」

ためらい無く、ウーレスはタンホイザーを起動させる。
――と同時に、CICから声が上がった。

「不審船より機影三! こちらに向かってきます!!」
「三、だとぉ?」

思わずウーレスは、身を乗り出した。
奪われたMSは二機。やってくるのは三機。

――まずいな……

ウーレスの頬に冷たい汗が流れる。
彼の機体は今、アームの調子がおかしく起動不可能。出られる状態のパイロットはルタとルナマリアだけである。
すぐに応援が来るとしても、一定時間、二対三の苦しい状況にならざるを得ない。

しかし、出ないと話にならない。

「仕方無い……ルタ! ルナマリア! タンホイザー発射後出撃だ!!」
《はっ!!》

返事をしつつ――ルナマリアは、手を震わせていた。
明日にも出撃……冗談交じりにそんなことも考えていたが、まさか当日に実現するとは、思いすらしなかった。

戻りたくなかった戦場に、ルナマリアは戻ってきた。
光が放たれ、先にルタが宇宙へ飛び立つ。
戻る。あの、血生臭い戦場に。

いま、この瞬間――


「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!!」


それはまるで、昔の威勢を取り戻そうとするかの如き咆哮だった。





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