ザフト襲撃 「……第11格納庫ぉ?!」 エレベーターで地下に向かうディアッカは、アスランから出た聞きなれない言葉に顔をしかめた。 彼の記憶が正しければ、軍本部に在註する格納庫は10しかないはずである。 「ザフトも結構、秘密主義なんですねえ」 「軍、だからな」 ヤナックのぼやきに、イザークが正論をかぶせる。 ルナマリアの見つけたENEMYの姿に、ディアッカはすかさずイザークと連絡を取った。その情報はすぐに軍上層部に伝えられ、特殊班も動こうとする中、別行動を取る形で、疑惑の場所へと向かっているのだ。 彼らすら知らない、それこそ疑惑の格納庫へと。 「……で? そこには一体、何があるんだ?」 「…………それは…………」 苦渋の顔で、アスランが答えかけたその瞬間―― ウウウウウウウウウ!! かん高いサイレンの音と共に、エレベーター内は、赤い光に染められた。 けたたましいアラート音が、軍本部内にも響き渡る。 「ンだあ?!」 「くそ……!!」 アスランから焦燥感が溢れる中、エレベーターは最下層に到着した。 彼らはエレベーターから飛び出し――固まってしまう。 広くひろく、広大な敷地の中にあるのは、倒れる軍人と、武器を手に逃走をはじめる『賊』と、そして――色を失った一つのMSを担ぎ、動こうとしている紫の機体―― ――デスティニーと、ジャスティス―― 「な!!」 「あれって……ジャスティスと……デスティニー?!」 「破棄されたんじゃなかったのか?!」 メサイア戦にて大破したデスティニーと、満身創痍となっていたジャスティス。同じく破損箇所の多かったフリーダムはオーブ軍に回収されたが、デスティニーはザフトが回収、ジャスティスも、ラクスやアスランがプラントに移る際、ザフトに譲渡されていた。その後二機の詳しい動向は発表されず、風の噂に「破棄された」と伝え聞いただけだったが……まさか修復されていたとは。 ずっと驚きっぱなしでいたいところだが、そうも言っていられない。『賊』が全て室内からいなくなり、色を失ったデスティニーを担ぐジャスティスもまた、開かれる大きな扉から、外に飛び出してしまった。 豪風が、彼らを襲う。 「くっ……『賊』、格納庫から逃走!!」 アスランは倒れぬ様、足に渾身の力を込めながら、装着したインカムへと現状を叫んだ。 《叫ばなくても聞こえてる!!》 返ってくる罵声は――コズマ・ウーレスのもの。アスランと共に行動しているのは、イザーク、ディアッカ、ヤナックといったジュール隊の面々のみ。ウーレス隊と新型を受領したシホは、逃走の可能性も考え、戦艦にて自分の持ち場に着いている。 「しっかし、人がトイレ行ってる間に、おかしな事件も起こったもんだな」 《隊長、悠長なことを言ってる場合ではないと思いますが》 専用機、バニッシュ・ザク・ブレイカーに乗り込んだルタは、メインモニタを全て使って、呑気なウーレスの態度に苦言を呈した。 彼の言う通りだ。事態は――かなり切迫している。 アスランのインカムを通し、すでに彼らも事態の概要を知るところとなっていた。 《『上』があの二機を修繕し、何に使おうとしていたかは知りませんが、あれがザフト外の手に渡るのは非常に危険です。中を解析されたら、前大戦の二の舞、三の舞まで踏むことになりますよ》 「お前に言われなくても、分かっている」 急に、ウーレスの顔から笑みが消えた。 「目標、MS二機を奪った『賊』! ビクトリア、発進!!」 ウーレスの掛け声から、ウーレス隊所属の船、戦艦『ビクトリア』は宇宙に向けて動き出した。 |