ザフト襲撃




「…………」

改良型ザクのマニュアルを見ながら、ルナマリアは別のことを考えていた。

今、こうしてコックピットに座り、マニュアルに目を通し、動作確認をする自分に、明らかな違和感を覚える。
つい先ほどまで、彼女は一般人だったのだ。それが――復隊する事になって――復隊して――なし崩しのまま改良機を受領している。
これでは明日にも、出撃命令とか受けてしまいそうだ。


<こんな事をするために、ザフトに戻ったわけじゃないのに……>


なら、何をするために戻ったのか。
それは、シンのことを知るため。アスランの手足となって働くため。
そのためなら、何をしても良いのか。

自問自答が繰り返される。

「……調整は全て終わったのか? ルナマリア」
「え? あ、エスター……さん……」

突如コックピットに顔をのぞかせた先輩パイロットをどう呼べば良いのか分からず、彼女は口調を迷わせた。
すると現れたルタ・エスターは、一瞬怪訝な顔をして、

「ルタで良い。それより、訓練中にボーっとするな。隊長がいないから良いものの……いたら何言われるか分からないぞ? あの人、嫌味言うのが大好きだから」
「……はあ……」

ちなみにウーレス隊の隊長、コズマ・ウーレスは、ただ今お手洗いにお出かけ中である。
――と、

『――?!』

二人は唐突に、同じ方角を凝視した。

視線を感じて。

「……また……」
「また? お前、ストーカーにでも狙われてるのか?」
「いえ、さっき……機体受領直前にも、強い視線を感じた気がして……」

もう一度、強い眼差しを感じた場所を見る。
やはり――人はいない。
しかし、二人同時に感じたことからも、気のせいとして処理は出来なかった。

ルタが、視線を受けた壁に近づく。
静かに手を触れて、横に走らせ……ある一点で、ピタリとその動きを止めた。

「どうしたの? ルタ」

声を上げたのは、『レベッカ』の操縦テストを終えたシホ。彼女は機体を降りると、そのままルタの元へと直行した。

「……反省?」
「……レンズがある」
「レンズ??」

言われ、シホはルタの指先に目をやった。
確かに見える、小さなレンズ。彼女小指の爪にも満たないほど小さなレンズは、格納庫を反射させていた。
そう、これは超小型カメラ。

「何故こんな物が、ここにある?」
「一体、いつから……」
「……まさか俺達、上層部に監視でもされてんのか?」

ヤナックが、疑惑に眉を吊り上げた。
軍本部である以上、監視カメラは至る所に設置されている。しかしこれは……まるで盗撮ではないか。
こんな場所にある以上、格納庫が作られた時からレンズが埋め込まれていると考えるのが、自然の流れで。

「……そんな……」

ルナマリアもまた、激しく動揺した。
せっかく戻って来たと言うのに、初日からこの騒ぎなのか。こんなにも、軍とは汚い場所だったのか――悔しさを滲ませながら、ルナマリアは『ローズ・ザク・エルザ』の主電源を入れた。テストは既に終了させているが、何となく、このまま降りる気になれなくて。
どうにもやり切れない。このままシホと、模擬戦部屋に駆け込みたい心境だ。

何の気なしに……本当に何の気なしに、レーダーを見やる。すると、これまた不思議な現象があった。

「……え?」

室内にもかかわらず、レーダーに赤い点が映っている。


ENEMYランプが。


「おい、ルナマリア! 起動させるならハッチ閉めろ!!」

気付いたディアッカが叫びを上げるが、ルナマリアに反応は無い。
反応――出来ない。
どう見ても赤い点滅が、彼女の思考を停止させている。

「〜〜ルナマリア!!」

たまらずディアッカは、ルナマリアの座るコックピットへ飛び乗った。それでも彼女は呆然と、ENEMYという文字と対立し続ける。不思議に思ったディアッカもまた、入った瞬間、その瞳に赤いランプを灯し、言葉を失った。


ENEMY――この場合、ランプは『赤く光っている所に、ザフトの識別コード以外の軍事関係物がありますよ』と告げていることになる。


「……マジかよ」

しかもその光は――彼らのいる格納庫の真下を目指し、動いていた――





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