ザフト襲撃


「証拠は無い。だが、あの人がロゴスなら、説明の付く事がたくさんあるんだ。実際……そこに連なる重要資料も手にしてる」
「デュランダル議長が……ロゴス……」

イザークは最終的に、デュランダルを裏切る側に回った。打倒ロゴスを掲げてから、イザークの中で、ギルバート・デュランダルに対する不信感が生まれ……彼がプラントを焼いた『レクイエム』を自らの兵器として使った時、不穏感情が爆発したのである。

それでも、ロゴスというのは信じられない。
ロゴスだというなら、彼は――

「……だから貴様は、上の意向通り、復隊を決めたのか?」

――ギルバート・デュランダルが、ロゴスである証拠を見つけるために――


例えそれが、道化の如き操り人形だとしても。


「それが根本って訳じゃないが……でも、どっちにしろ、あの人がロゴスである証拠をつかまないと、色々大変なんだ」
「ほう? どれだけ大変なのか言ってみろ。それで大変具合を判断してやる」

今度はイザークが、背もたれに身を預けた。腕を組み、踏ん反り返り、気分はまるで、どこかの王宮貴族か――


<……何でこいつは、いつもいつもいつもいつも、俺に対して偉そうなんだ??>


アスランも……呻かずにはいられない。
上司になったことはあっても、部下になった試しは無いのに、どうしてこんな態度をとられるのか。


それでもアスランは、大変なことを口に出した。
天を仰ぎながら、呆然と。


「ラクスの立場が危うい」


一言だけ。
今……執行部直々の裁判にかけられている、ラクス・クライン。彼女は、プラントの人間としてギルバート・デュランダルに反旗を翻した、言わば代表的存在である。デュランダルがロゴスかそうでないかは、彼女の人生を大きく左右すると言っても過言ではないのだ。

「それが無ければ、ラクスに重罰が課せられる、という訳じゃないが……審理に大きな影響を与えるのは間違いない。だから、一刻も早く取り戻したいんだ、その証拠を」
「――取り戻す?」

イザークの耳は、これまたおかしな表現を捉えた。
取り戻す、とアスランは言った。ということは――

「奪われたのか!!」
「正確には、存在自体、奪われてから発覚した、というか……」
「はっきり言え!!」

歯切れの悪い言い方に、イザークは思わず、テーブルを叩いてしまった。
食堂にいた軍人全員が、驚き、二人を見る。
浴びせられる好奇の眼差し――それに耐えられるほど、銀髪の隊長が、広い心を持ち合わせてなどいるはずもなく。

「何だ貴様ら、見世物じゃないぞ!!」

一喝が飛び、怒られた軍人達は、悲鳴と共に四散する。

場が落ち着いた所でもう一度。

「……で?」

今度は怒鳴らずに。

「……メサイアでの戦いの後……一週間も経たない頃だ」

アスランは、渋々話し始めた。
心持ち声を小さく、他者に聞き取られにくい様に。

「軍が大破したメサイアを探索していたんだが、休憩中に、あの人が持ち込んでた軍事機密、根こそぎ強奪されたんだよ。その中に紛れてたみたいなんだ、証拠」
「なんだそれは」

考える前に、イザークの口から呆れた声が響く。

「機密って……どの程度なんだ?」
「規模はしっかり把握できてない。ただ……『伝説』が奪われた可能性が非常に高い」
「伝説……ああ、議長が造った、新型の片割れか」
「ああ。キラの話だと、メサイアの中にあったはずなんだが、機体の破片すら見つかっていない」

はあ、とアスランが息をもらす。

「しかも……奪ったのが例の『海賊団』と来るから性質が悪い」
「じゃ、俺達の任務は――」
「海賊討伐だ」

イザークは……頭を抱えてしまった。
尻拭いも良いところだ。そんなもの、ヘマした者達に責任持って取り返させれば良いものを……
いや、それが出来ないから呼ばれたのか。

そんな風に、頭で色々考えて。

『!!』

同時に二人は振り返った。
方や横を、方や背後を。

「……何だ? 今の……」
「……視線……?」

二人が同時に、しかし別々の方角から強烈な『視線』を感じ取った。その先には軍人がたくさん居すぎて、視線の人物を特定できない。

おかしな現象――
それは再び、格納庫でも起きようとしていた。





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