未来の道標



「ルナ……何で……」
「ごめん……シンの家行こうとしたら……こっちに向かってたから……」

一歩、足も引かれる。だがそれ以上は、後ろから両肩を掴まれ、下がれなくなってしまった。
ディアッカによって――

「……ディアッカさんまで……?」
「気付いてなかった? あいつ、いつも居ること。あーやって、いつも遠くで帰ろうとするの待ってるけど」

くすくす笑いながら、ミリアリアは続ける。

「ルナマリアも、時々来てるわ。シン君の後つけてね」
「え――」
「大体、シン君がちょっと落ち込んでる時かなー」

この三年間、シンは落ち込んだり気が沈んだりすると、この場所に来ていた。
きっかけは、まだ入院中だったミリアリアが放った「外に行きたい」という言葉。外――しかも自然の中を歩きたいと言われ、病院からも離れていない場所を探し、見つけたのがここなのだ。
病院の裏手にある自然の宝庫は、人気もあまり無いまさに『穴場』で、気分転換には絶好の場所である。
だから誰にも……ルナマリアにさえ教えていなかったのに。


「ほら、ちゃんと最後まで言えって」
「でも…………」
「良いから、しっかり言って来い」

ディアッカが、ルナマリアの背中をポンッと押した。身体は勢い良く、シンの元へ向かっていく。おかげで引くに引けなくなり、ぼそぼそとだが、言葉を放ち始めた。

「……ごめん、ね。こそこそ、こんな……こと、して」
「いや、そんな……謝らなくても……」

シンもまた、どう返して良いか分からず、呟き様に視線を落としたが――



「心配、だったの」



続く言葉に、ハッと顔を上げた。

「シンって、すぐ、どっか行っちゃいそうで……いなくなっちゃいそうで……また、居なくなったら……って……」
「ルナ……」


あの日――彼女はシンが苦しんでいるのを知っていた。
悔やんで、落ち込んで……心が上げた悲鳴を聞いていたのに。
なのにルナマリアは、メイリンを一人にしておけなかった。したくなかった。一緒にいたかった。
そしてシンは、誰にも、何も告げずに姿を消した。三ヶ月も、連絡一つ無く。


シンが沈んだ顔をしていると、無性に当時を思い出した。
そしてルナマリアの憂いが、シンの心に教えてくれる。

「……ごめん」
「どうしてシンが謝るの? 悪いのは私――」
「ごめん。……心配かけて」

彼女が負った、心の傷を。
シンがつけた、ルナマリアの癒されない傷。

「今日は、ミリアリアさんに会いに着たんだ。ほら、完治したって聞いたから」
「え……? あ、そっか。なんだ……私の早とちりか……」

あはは、と乾いた笑いを奏でながら、ルナマリアは指に髪を絡め、

「でも、良かった……」

勘違いだったことを、心の底から喜んだ。
シンがまた苦しんでいたんじゃない――と分かって、ほっとする。

「……今度はルナも誘うよ」

シンの言葉に、彼女は顔を上げた。

「今度来るときは……一緒に来よう?」
「良いの……?」

不思議そうに、ルナマリアは尋ねた。

「ここ……シンの大切な場所、なんでしょ……?」
「だから、ルナと一緒にいたいって思うんだ」




*前次#
戻る0

- 177 /189-