未来の道標






風が通り抜けていく。
穏やかな夜風を体に受けながら、胸丈ほどに伸びた草原の中、シンは悲しげに星空を見上げた。
宇宙に星が流れていく。
無数の星が、紺闇の空に小さな星を輝かせは消え、そしてまた輝かせる。
おもむろに、シンは横に目を向けた。数メートル先に、栗色の髪を発見する。

「ここ好きですね、ミリアリアさん」
「君もね、シン君」

にこりと笑うは――ミリアリア。彼女はよく、ここに来ていた。
そしてここで、よくシンと会っていた。

「オーブと似てるからかな……」
「似てますか?」
「うん。小さい頃、こんな風景の中で遊んだなー……って」

雑音も、邪魔な光も無い。広がるのは自然の世界。人工的に造られたプラントにおいて、非常に珍しい空間と言える。

「どうしたの? 今日は。また失敗でもした?」
「違いますよ。ミリアリアさんの治療が終わったって聞いたから……」

そこまで言うと、シンは真剣な瞳でミリアリアを射抜いた。


「地球に、帰るんですか?」


ごくりと喉を鳴らし、シンは訊いた。
治療のため、プラントに留まり続けたミリアリア。彼女はあの一件以来、一度も地球の土を踏んでいない。
シンに緊張の空気が流れる中、ミリアリアは実にあっけらかんと言ってのけた。

「うーん……残るかな、プラントに」
「のこ……る?」

その答えに、シンは衝撃を受けた。
予想だにしない言葉に、声が続かない。

「そんなに不思議?」
「え?」
「私が、ここにいること。そんなに驚くこと?」
「や、俺はただ……カメラマンに戻るのかなって、思ってたから……」

まるで責められているような錯覚に陥ったシンは、しどろもどろになってしまった。
入院中のミリアリアを何度も見舞いに行ったシンは、彼女が地球でカメラマンをしていたことやアークエンジェルに乗って戦争に参加していたことを聞いていた。おまけにミリアリアはナチュラル。自然と、治療が終わったら、地球に戻るのだと思い込んでいた。
三年という時間の多くをともに過ごしたのだ。帰って欲しくないと思っている。
そんな中、ミリアリアが口火を切った。

「カメラマンの道を選んだのは、戦争で苦しんでる人、悲しんでる人……痛みを感じてる人や場所、そんな現場を一人でも多くの人に知って欲しかったから。私の写真一枚がどれだけの力を持つかなんて、たかが知れてるけど……でも、伝えたかったの」

シンは黙って聞いていた。
ミリアリアの思いを。

「世界中を見渡せば、戦争が無くなったわけじゃない。戻りたいとも思う……けど、戻らない。戻れない……かな?」
「何か、問題でも……」
「私にしか出来ないこと、見つけたから。ここで」
「?」
「……後ろ、見てみて」

視線を後ろに向けると――何故かルナマリアの姿があった。
ここには、一人で来たはずのに。
方や心配そうに見ていた彼女は、シンの目が向いたことに驚き、顔を背けてしまう。




*前次#
戻る0

- 176 /189-