未来の道標






「ぃってー……」

マンションの通りを曲がると、少女を助けた青年は、呻き声と共にしゃがみ込んだ。
手が向かうは左足首。どうやら着地したときにひねったらしい。

「くっそ……たった三連休で、体なまったか?」
「おいおい、久々の三連休に向かって、そんな弱音はかないでくれよ」

うずくまるシンに、横からヴィーノが悪態をつく。
その後ろでは、ヨウランがヴィーノにあきれていた。

「つーか、先にシンの心配だろ……大丈夫か?」
「へーきへーき」

苦笑しながらも、左足はかなり痛かった。

あれから三年。一度オーブに渡ったシンは、自分の『やりたいこと』を見つけ、プラントに戻ってきた。
彼がやりたいこと、それは――命を守ること。
何よりもまず、命の危機に瀕している人を助けたい。それゆえに選んだのは、救助隊の仕事。三ヶ月の『行方不明期間』を終え、晴れて除名処分を受けていたシンは復隊への再試験を受け、今やレスキュー部隊のエースとなっている。
そんな忙しい彼が、珍しく三連休を取ることが出来た。珍しくも貴重な一日を使い、彼はヨウラン、ヴィーノと共に買い物にくり出したのである。というのも、つい最近、めでたくヨウランに彼女が出来た。その彼女の誕生日が、一週間後に控えているのである。
というわけで、贈り物探しにやって来たら、マンションの一件が起こり、気付いたシンが飛び出した。

「行くなら行くって言ってから走ってくれよ。おかげで俺達出番無しじゃん」
「悪い悪い」
「でも、助かって良かったな」
「ああ」

シンは、心の底から頷いた。
良かった。本当に、助かって良かったと。
そして、一息ついて――改めて、ヨウランは本題を口にした。

「――で、どこに行く?」
「どこって……」
「言われてもな……」

話を振られたシンとヴィーノは、そろって頼りない言葉をもらした。
おかげでヨウランは大きなため息をつく始末。

「本当は、メイリン辺りに来て欲しかったんだけどな……」

彼はぽろりと本音をもらした。シンとヴィーノでは、はっきり言って女の子の好みを把握しているとは思えない。
メイリンか――あるいはルナマリア辺りか。
しかしルナマリアもメイリンも、今日は夕方まで時間を空けられない。


「てか、ヴィーノ。お前ってさ、メイリンのこと諦めたの?」
「は?! え?! なんでいきなり俺の話題になんだよ!」
「そりゃ、メイリンの名前が出たから」

ヴィーノは一度、メイリンに告白した。
極限状態の告白。彼女も覚えてるか分からない状態での告白だった。
けれど彼女はしっかり覚えていて、ちゃんと答えを返してきた。
答えは――NO。
そういう対象として見た事が無かったのと、当時の彼女に『恋愛』を考える余裕が無かったため、ごめんなさい、と返ってきた。しかしヴィーノは答えをしっかり受け止めた上で、彼女の気持ちの変化を待つ、と言っていた。


この恋、まだまだ現在進行形――


「良いのか? ぐずぐずしてると、他の誰かに取られちまうぞ?」
「ぐずぐずって言ってもさ……メイリンはまだ、恋愛する気ないって言ってるし……」
「でも、燃え上がると、んな理屈吹っ飛ぶって」

経験者、ヨウランは語る。

「ライバルも多そうだしなー」

続くシンが、恐ろしいことをもらした。

「とりあえず本人は、今、キラさんに憧れの眼差しを送ってるしな」
「――え?」
「……まさか、知らなかったのか? メイリンは、キラ・ヤマトに憧れて、遺伝子工学専攻したって」
「――は?」

シンとヨウラン、二人から告げられた真実に、ヴィーノの頭は真っ白になってしまった。






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