紅乙女


新型。
と言えば、MS。
ザフトの常識である。

「ここだ」

シホを筆頭に、イザーク、ディアッカ、ヤナックの連れて来られたのは、本部地下にある第一格納庫。そこには二つの赤いMSと、赤服や白服を纏ったもう一つの隊の姿が見えた。
自然とイザークの眉間にしわが寄る。
いるのは――ウーレス隊。

「お? 遅かったな、ジュール隊長」
「そっちこそ、抜け目が無いな、ウーレス隊長」

イザークとコズマの間に、火花がばちばちと舞う。
その一方で、

「ひっさしぶしだな〜、ルタ」
「そうか?」

ヤナックは、ウーレス隊の赤服少年・ルタに笑顔を振りまいた。
ルタ・エスターという名の『赤』は、ウーレス隊を支えてきた実力高い『エース』である。シホ、ヤナックと同期で、卒業試験は主席突破を果たしたエリートだ。

「あなた、もう少し自分の隊長困らせなさいよ。私の隊長、そっちの隊長のおかげで、さっき派手に転ばされたんだから」
「……それは、俺に言われても困る」

シホのわがままに、ルタは低く呻く。
……隊長同士の仲は悪いが、赤服同士の仲は、そんなに悪くない――というか、この三人はすこぶる仲が良かったりする。

その様を、少し離れた所から、ぽかん眺めるルナマリアがいる。
隊長を見て、同じ『赤』を見て。
そして――そびえ立つ赤いMSに目をやった。

ウーレス隊も、新型受領のためにやって来たのだ。
乗るのは……ルナマリア。

「ザク、ですよね?」
「改良型試作機、ローズシリーズだ。二機作ったのを、君と、彼女に乗ってもらおうと思って」

問われ、赤いザクを見ながら、アスランはつぶやいた。
渡される新型……復隊直後のこの事態に、ルナマリアは焦りと不安に駆られていた。

早々に、この状況とは……まるで、そう遠くない未来に、有事が待っているかのように。
呆然と眺めるルナマリアを横目に、アスランは解説を続ける。

「ルナマリアが乗るのは右の、ローズ・ザク・エルザ。シホさんが乗るのが、ローズ・ザク・レベッカだ」
「エルザとレベッカ……赤い連星と同じ名前ですね」
「赤い外装に、二機の試作機ってこともあって、あやかったみたいだな」

赤い連星とは、プラントの軌道上に存在する、二つの衛星のことである。プラント開拓時から存在する衛星の名が、「エルザ」と「レベッカ」。
紅に輝き、プラントからでも眺められる、数少ない本物の「星」である。

「今のところ、二つセットで紅乙女と呼ばれてる」
「紅乙女……」

これが、自分に与えられた機体。
これから乗る機体。
そう、かみ締め――

「……?!」

後ろから視線を感じ、ルナマリアは振り向いた。
しかし、誰もいない。あるのは壁だけ。

「どうした?」
「いえ……」

確かに感じた、強烈な視線。それは気のせいで済ませられるほど、あやふやなものではなかったがー―


〈……誰もいないんじゃ、気のせいでしかない……わよね?〉


それは、誰も気づかなかったこと。
――気づけなかったこと。

その時ザフト本部には、至る所に不穏な影が存在した。
冷静であれば、誰もが気づけた不穏分子。


事件の幕は、この夜上がった――


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