未来の道標





キラとラクスがそこに出会わせたのは偶然でも、シンとアスランが顔をあわせたのは偶然ではない。ルナマリアとメイリンが、二人が会えるようスケジュールを合わせて動いたのだ。こうでもしないと、二人は――いや、シンは、アスランと顔をあわせようとすらしないだろう。ゆえに、シンとアスランの関係を心配した二人が、この方法を考えたのだ。
そうしたら、キラとラクスも合流して。

気まずい空気が流れる中、アスランがシンに、キラがフリーダムのパイロットであることを告げる。同時に、シンがインパルスの――デスティニーのパイロットであることも。



互いが、互いを認識した。
目の前に『フリーダムのパイロット』としてこの場に存在するキラ。アスランはシンに語りかけ、キラもまた、言葉を紡ぐ。それをシンは、黙って聞いていた。
俯き、視線はやや下に落として。
方やメイリン、ルナマリア、ラクスの三人は、少し離れたところから、彼らの様子を見守っていた。
介入しないほうが良い。離れた方が良いー―そんな空気が流れ始めたためである。
だから彼女達は、彼らが何を話し合ったのか知らない。


アスランが何を話し、
キラが何を語り、
シンが何を聞いたのか分からない。


ただ、三人の邂逅は長くかからず、それほどの時間を要することもなく、まずはアスランが一歩離れ、次いでキラがシンに何か声をかけながら離れて、それぞれラクス、メイリンとともに、まったく別の方向へ足を進めていって。
残されたシンの元には、ルナマリアが駆け寄った。

「……大丈夫?」
「…………」

シンは何も答えない。その代わりに、いつの間にか手にしていた、妹・マユの携帯を、更に強く握り締めた。








「聞かないの?」
「聞いて欲しいですか?」
「……あんまり、聞かれたくないかな」

自分で話を切り出しておきながら、キラは苦笑いを浮かべた。
慰霊碑の前で話し合ったことについて、ラクスに全く触れられなかったから出た言葉であったが、聞かれたら聞かれたで、また答えに困ってしまう。
どう話せば良いのか分からない。これはもう、精神論だ。
ただ――……憎しみが呼ぶもの。戦争の痛み。
悲しみが苦しみに変わる連鎖を、自分の感覚でシンに話した。
彼がどう受け取るか分からないが、自分の考えだけは伝えておこうと思って。
自分の言葉が――今、悩んでいるように見えた――シンの力になれば、と思って。
吉と出るか、凶と出るか、それは本当に、シン次第だ。

そうこうしている内に、甘えるようキラの肩に頭を置くラクスの目に、大きな屋敷が映りはじめた。
二人の思い出がたくさん詰まった、マルキオ導師の館である。
ここが二人にとって、オーブ渡航の最大の目的地。マルキオや、キラの母、それに子供たちへ、今まで、そしてこれからの、身の取り方を報告するためにやって来たのだ。

彼らに、会って直接話したかった。
限られた時間を大切な人たちと過ごしたい……そんな思いも強かった――






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