運命の交差






陽が昇る。
夜が終わり、朝がくる。
騒動から一夜明けても、プラントは――特に上層部は大騒ぎだった。
ライドンの起こした一連の事件、そしてラクス・クラインの議長就任案。特に『クライン議長』の誕生には異を唱えたい議員も多かったが、そのほとんどがクルゾフに逆らえない立場になっている。
間接的にでも、ロゴスと関わった現実が、彼らの首を絞めていた。
が、

「やはり私は反対だ!」

一人だけ、積極的に反対案を出し続ける男がいる。

そこに、一人の青年が姿を現した。
短く整えた黄色の髪。眼鏡をかけた利発そうな青年は、浴びせられた怒号に一瞬ひるみながらも、自分の身分を明かした。

「オーブ首長国連合代表、カガリ・ユラ・アスハから任を受けました、オーブ使節団が一人、サイ・アーガイルと申します。お約束通り、資料をお持ちしたのですが……」
「な、にぃ?!!」

青年の――サイの言葉に、評議員は慌てふためいた。
『それ』が『そこ』にあるはずはない。
そこにあってはいけない物なのだ。
奪われたはずだ。
奪ったはずだ。




自分が。
命令して。
昨日。
奪い取ったはずだ。




評議員の頭が真っ白になっていく。
動揺を隠すことの出来ない評議員を横目に見ながら、サイはラクスへと足を進めた。

「お久しぶりです。お元気そうで、何よりです」
「サイさんも……無事の到着されて、安心しました」

にこりと笑うラクスに、サイは黒い鞄を手渡す。そこには確かに、奪われたはずのオーブの機密資料が全て詰められていた。
顔色がさらに悪くなる。

昨日の夜、彼は中身を確認した。
あれは確かに、機密と呼ぶにふさわしい物だった。
なのに、この事態は――

「こんな重要なもの、あんな場所で受け渡したりするわけないだろ」

続いて聞こえた声に顔を上げると、機密受け渡しの際、傷を負って病院に搬送されたアーザンがいた。

「アーザン……寝てなくて良いのか?」
「こんな時に、寝てなんていられませんよ」

クルゾフの言葉に、アーザンは悪戯っぽく返す。傷はまだ癒えていないようで、その姿はかなり痛々しい。

「まだ分かりませんか? あなたを誘き出したんですよ。あなたの『存在』をね」
「存在、だと?!」
「プラントのロゴスと大きな繋がりを持つ者が、かならず議員の中にいる。それを全て浮かび上がらせたかった」

続けるのは、クルゾフ。

「だから色々揺さぶりをかけたんだ。どこで誰が、どんなボロを出すのか……気が気じゃなかった。どこまでの人脈を信じられるのか分からなかったおかげで、今回の一件では、ザフトとの連携も上手く取れなかったしな」

どこまで情報開示をして、どこまで伝わっていくのか。
どこまで本当に内々の、絶対に外部流出を防がなくてはいけない情報を流せるのか。
それを探りながらやっていたおかげで、いらない不信感がたくさん出てしまった。


「面倒なことは、一気に片付けてしまいたい性質なんだよ、私は」


クルゾフが笑う。アーザンやカルネアが、彼の退路を絶つように道をふさぐ。
評議員は、震えながらパソコンを見た。
夜、自分が確認した、クルゾフを陥れる秘密兵器を。
自分が『議長』になるために、大いに役立ってくれるはずだったオーブの機密資料を。
手に入れたことが嬉しくて、自身のパソコンに落としていたデータを。


見ると、それは機密事項。
迷うことなく、とても大事な資料――だが、画面の端っこに見えた一つの単語に、評議員の顔から血の気が飛んだ。
赤く輝く [sample]の文字を見つけて。






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