運命の交差




――と、大きな公園を見つけ、足を止める。ギルバート・デュランダルが愛した唯一の女性――タリア・ダグラスの生家のすぐ近くにある、広々とした公園の前で。
夕暮れが鮮やかな朱色を広げる中に、一人でボール遊びをする少年を見つけた。そこには、タリアの面影が見え隠れする。
首から下げたペンダントには、ザフトの紋章。


「ダグラス君、だね?」


ライドンが声をかける。ボール遊びをしていた少年は、不思議そうにライドンを見――そして彼とは反対方向に駆けていった。少年が向かう先にいるのは、茶髪の女性。その視線、立ち方から、軍人の臭いすら感じとれる。
少年の肩を抱くと、女性は不審のまなざしでライドンを射抜いた。

「どちら様ですか?」
「その子の母親の戦友ですよ」
「そうですか」

嘘は言っていない。タリアとは一緒に軍規を学び、共に戦場に出た事だってある。けれど女性は信用せず、ライドンから離れるよう、後ろに一歩分間合いを取った。
その間に、顔に傷を携えた金髪の男が割って入る。

「どーも。うちの奥さんになんか用?」
「いや、彼女と一緒にいる子供の方なんだが……」

やれやれ、とライドンは頭をかいた。
何だか知らないが、かなり警戒されている。自分はただ、少年が首にかけている、ザフト紋のペンダントが欲しいだけなのに。
さて、どうやってこの二人を排除しようか――考え、冷徹な眼差しと共に、懐に右手を忍ばせた時だった。


「まったく。最後の最後まで手を焼かせてくれますね」


知った声が、後ろから響いた。
右手を忍ばせたまま、背後に目をやる。いたのは、息を切らしながら銃口を向けるイザークだった。
ここにイザークがいるのは――半ば強制的に「行け」と言われたから。
ミッションを終え、ザフト本部に戻る道すがら、イザークはヤナックに連絡を入れた。シホの容態を聞くためだったのだが、ヤナックはすぐにアスランに電話を奪われてしまった。
ご立腹のジュール隊長に与えられたのは――今すぐ、タリア・ダグラスの生家に向かえ、という指示。
そこにライドンが向かっているから、と。

イザークは、腹立たしくて仕方が無かった。
彼が早く身柄を確保させてくれなかったおかげで、シホの容態を聞きそびれてしまって。

「おとなしく捕まってください」
「……誰にものを言っている? イザーク」
「抵抗するなら、撃ちます」

そこには『躊躇』という感情がまったくこめられていない。
イザークは撃つだろう。こちらが不審な動きをすれば、すぐにでも。しかし――

「もし外したら、一般人に当たるぞ?」

イザークの前にいるのはライドンだけではない。その奥には、一般人が三人もいる。

「それに、射撃の腕前で、俺に勝てるとでも思ってるのか?!」

言い様、ライドンは右手を抜き出した。
取り出したのは、夕日が赤く照らす一丁の拳銃。
同時に銃声が響く。女性はその現場を見せないよう、自分の後ろに少年を隠した。


ライドンの手から、拳銃が落ちる。
イザークの手に残された銃口から、微かに白い煙が上がる。


「な……んだと……?」
「おっと、動くんじゃねーって」

落ちる拳銃を拾おうとしたライドンを、すかさず男が取り押さえた。
自由を奪われながら、ライドンは信じられない形相で、イザークを見上げる。

「……なぜ……俺が撃ち負ける……?」
「確かに、貴方の銃技は高いものがある。未だザフトの卒業試験で貴方の記録を破ったものはいないし、俺もあと二点というところで、貴方の記録に負けた。けどそれは、あくまで『士官学生』のレベルだということを忘れていないか?」

悔しい。悔しい。とても悔しい。
撃ち負けたライドンも、撃ち勝ったイザークも。
ライドンは、銃技に絶対の自信を持ち、誰にも負けないと自負していた。それが、こうもあっさりと負けた。
イザークにとって、ライドンは『目標』でもあった。少なくとも士官学生の頃の自分は、銃技でライドンに負けている。軍人になっても負けるのは、彼としてはとても悔しいことだ。

「過去の栄光に驕れたな」

その言葉がとどめになったらしい。がくりと膝を突いたライドンは、イザークと、顔に傷を持つ男――ムウに立ち上がらされてもなお、脱力したままで。結局そのまま、本部へと連行されていった。






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