運命の交差







――失敗したか――

そこはプラント。一向に訪れない衝撃に、ライドンは小さなため息をついた。計画通りに運んでいれば、今頃、二つ隣のコロニーが『所属不明』の勢力から攻撃を受け、破壊されている頃合である。
まあ良い、と思う。失敗したならそれもまた一興。欲しくて欲しくて仕方の無かったものがもうすぐ手に入るのだ。Lシステムが破棄されたことを悔やんでいる場合ではない。
議長が残した最後の鍵。鍵の中にあるマイクロチップ。それこそが、ライドンが推し進めてきた研究の後押しをしてくれる資料である。
そして、ミリアリア。
もともと、彼女にはカガリへのけん制――資金源となるオーブ機密の奪取と、もう一つ、遺伝子研究の実験体にする――この二つのために、その身柄を捕獲した。
試験中のDNAサンプルを体内で育ててもらうため、言わばサンプルの『母体』になってもらうために。
そして完成したDNA体と、レイの遺伝子情報を組み合わせる。欠損した部分の修復に当てるのだ。そのための『レイ』である。
けれどライドンは、最初からレイを信用などしていなかった。だからレイの遺伝子情報はすべて抽出しておいたし、少しでも早くDNAの完成形を見たかったため、すぐに彼女に薬剤を投与した。

レイの遺伝子情報。
ミリアリアの中の新たなるDNA物質。
その二つを組み合わせるために必要なのが、ギルバート・デュランダルが隠した最後の鍵。

この三つさえ揃えば、ギルバート・デュランダルでさえ見られなかった高みの世界に、足を踏み入れることが出来るかもしれない。
いや、踏み込んでみせる。
踏み込んで、テロメアを永久に伸ばし続ける『永遠の命』を手に入れ、この世界全てに復讐してやる。
それこそが、ライドンの目指す未来だ。


「まったく、どこに隠したと思ったら……」


鍵の隠された場所に向かいながら、ライドンは嘲笑した。
笑わずにはいられない。
これは彼にとっても重要な研究だったはず。その資料を、あろうことか――生涯唯一愛した女性の元に隠されたのだから。





『君に、命の長さを決める物を託す』
『君ならきっと、間違った使い方をしないと信じている』
『君の息子に送ったザフト紋のペンダントに隠した』
『もし私に何かあったら、君がレイを救ってくれ』





『愛するタリアへ』





それが、手記に残された一文だった。日付から見て、デスティニープランの発動を宣言した直後に、シンに託したと思われる。
しかし、なぜシンだったのだろう。レイの身の回りでは、自分を知る人間には分かりやすいとでも思ったのだろうか。レイとタリア、双方とつながりのあるシンに、自分に何かあった場合、タリアに渡してもらおうとでも思っていたのだろうか。
デュランダルが死んだ今となっては、知る手段のないことである。




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