運命の交差




アスランがキラからシンを離す。けれどシンは、相手がアスランだろうが容赦ない。

「レイが大変なんだ! 発作が起こって、このままじゃ……本当に死んじまう!」
「発作って?」
「遺伝子が悲鳴を発しているんだ」

レイの状態を説明したのは、シンではなかった。
同席していた、ルタである。彼の全てを知っているような発言に、場は一瞬、静まり返った。

「テロメアが限界なんだろう。薬は……持っていないからこっちに来たか」
「……あんた、どこまで知ってるんだ?」
「少なくとも、君よりは知っている。俺もレイと『同じ存在』だからな」

それがシンに、ルタの素性を教えてくれる。
そして、キラにも。
痛い視線を受けながら、ルタはポケットから白い錠剤が数個入った小瓶を取り出し、シンの手に乗せた。

「これを飲ませろ。気休めにはなる」
「でも……これが無いと、あんたは……」
「あっても無くても同じさ」

彼は言った。

「寿命なんだ。仕方ない」

そこにはあきらめがあった。
長くは生きられない。この薬があったところで、自分の寿命は数知れている。
だが、

「そんなの、だめだ」

シンが訴える。

「だって議長は、レイや……みんなのために研究をしてきたんだ。生まれながらに遺伝子情報が欠損してるんだから、それを補うための『治療』方法を探してきたのに、そんな――」
「……待って。そういえばアスラン、あの、議長が作ってたって言う資料は、まだ見つからないの?」

シンの言葉を打ち消すように、キラが話をかぶせる。

「ああ……議長の隠しそうな場所はあらかた調べたが、どこにも」
「そう……」

悔しげに、キラは目を落とす。
と――シンが突然、呟きをもらした。



「『君に、命の長さを決める物を託す』」



一瞬聞いただけでは意味を把握し辛い言葉の羅列に、全員が彼を見た。
たくさんの視線を浴びながら、呆然とシンは続ける。


「『君ならきっと、間違った使い方をしないと信じている』」
「シン……いきなり、どうした?」
「議長の手記の最後にあった言葉です」
「手記?! お前、そんなもの持ってるのか?!」
「先生に盗られけど……最後にそれが書いてあって」


ライドンも、これを見たはずだ。
彼が喜んだのは、この一文だったはずだ。


『命の長さ』はテロメア。
『君』は隠し場所。
なんとも分かりやすい「鍵」だ。

「シン、その『君』とはどこのことだ?!」
「書いてあったんだよな?!」
「『君』は――……」

シンが小さく口を開いた瞬間だった。
彼の声をかき消すように――けたたましく、ヤナックの携帯が鳴り渡った。






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