運命の交差







静かな廊下に、走るような固い音が響いてくる。そちらに目を向けるアスランとは対照的に、ディアッカはある種の鬱陶しさを感じながらも、その音の主を確認しようとはしなかった。
そこまでの余裕がない。
目の前には病室。中にいるのはキラとミリアリア。
祈り、瞳を閉じ――

「先輩!」

同時に聞こえた声に、ディアッカは渋々顔を上げた。
響いていた足音が、すぐ傍までやってくる。その主は、シホについて戦線を離脱したヤナックと、彼の友人であるルタだった。

「よぉ……シホは? どーよ」
「全治一ヶ月……ですけど…………大丈夫ですか?」

ヤナックの問いかけが、ディアッカには、ひどく不思議なものに感じられた。
ミリアリアのことを訊かれるなら分かる。けどヤナックの問いは、明らかにディアッカに向けて放たれたものだ。

「俺は別に、怪我も何もしてねーし」
「でも……」

ディアッカを見上げ、もう一度しっかりディアッカの顔色を確認し、たずねた。


「……今にも死んじゃいそうですよ?」


アスランも同意するよう、静かに頷く。
それほど憔悴しきったディアッカの姿。
彼は何だか、少しだけ情けなくなってしまった。
たった一人の大切な人を心配して、自分はまた、大事な仲間に心配されてしまう。
こうして思いは連鎖していく。

「……そんなに死相出てるか?」
「そりゃあもう――」

と続けようとした瞬間、目の前の扉が開いた。
出てきたキラは、扉を閉めるなり、ディアッカに微笑を投げかけた。

「大丈夫。ちゃんと助けるよ」
「…………悪い」

ディアッカはうな垂れる。
何も出来ない自分がはがゆくて。
そんな彼の代わりに、アスランが突っ込んだ説明を求めた。

「キラ、ミリアリア・ハウは、一体何を打たれたんだ?」
「遺伝子系統に作用するもの……新しい抗体を作る染色体、といったところかな」
「それが体内にあると、どうなるんだ?」
「最悪、再生能力が破綻する」

遺伝子の配列は、命が出来た時に決められてしまっている。そこに新たな染色体を組み込もうとするんだから、どうあがいたって不具合は出てしまうのだ。
何のフォローもなければ。

「なんで彼女は、そんなものを打たれたのか……」
「…………」

その正体を知っているキラには、ライドンの企みが想像ついた。
彼女が打たれたのは、治癒型遺伝子物質。しかもかなり不完全だ。
あきらかに試作品の段階である。
加えてミリアリアは健康体。異常個所を見つけるほうが珍しいだろう。
となれば――……

考え、キラの意識が心の奥底に向かいだした時、呼び戻すように大きな足音が響いてきた。
ヤナックとルタが走って来たときよりも、より速く、そして急いでいるのが分かるような、強い足音が。
廊下の端に目を配る。すると、ほどなく少年が飛び込んできた。
その少年は――


「あんたが遺伝子の研究してる人か?!」
「シン?!」


シンである。遺伝子研究者の話を聞いて飛び出したシンが、藁をも掴む勢いで乱入してきたのだ。
驚き、制しようとするアスランに構うことなく、シンはキラに掴みかかる。

「こっちに来てくれ! ここの人間じゃ、話にならないんだ!」
「シン、落ち着け! 一体どうしたんだ?!」





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