シン






後ろから、デスティニーが追ってくる。Lシステムからの攻撃を、ミネルバが回避しやすくさせてくれている。
以前は殺しあった仲だが、今は少なくとも「敵」ではない事実に、キラは少しだけ安堵した。
時間が無い。早くこれを沈めなければ、また、大きな悲しみが生まれる。
自分にも、そして他の多くの人間にも。


「壊させたり、しない……」


キラは呟く。


「あそこには、大切な人がいるんだ……!!」


守りたい人がたくさんいる。もう、大切な人を失うのはまっぴらだ。
キラの手に、力がこもる。


これまで、目の前で大切な人をたくさん失ってきた。
自分を助けようと戦場に飛来し、アスランに殺されてしまったトール。
ようやく助けられると思って手を伸ばした矢先、宇宙に消えてしまったフレイ。
今でもその瞬間を思い出すと、悲しみで目の前が真っ白になってしまう。


悲しみから遠ざかりたいばかりに、彼らとの思い出すら心の奥に封じ込めようとした時、それらを「忘れる」のではなく「自分の中の一部」にさせてくれたのは、ラクスだった。


忘れるのは悲しいこと。
大切な人との思い出まで忘れてしまったら、それはもっと悲しいこと。
楽しい思い出を悲しみで塗りつぶさない「安らぎ」を、彼女は教えてくれた。

ラクスだけじゃない。プラントには、たくさんの人々がいる。その一人一人に大切な人がいて、大切な時間があって、大切な思い出がある。それをこんな兵器のために、消させるわけにはいかない。


消したくない。


キラの瞳が光る。





種が、弾けた。








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