紅乙女




「くっそおおおおおおおおおお!!」
「のあああああああああああ!!」

ちょっとのどが渇いて、自販機までコーヒーを買いに行って。
帰ってきたディアッカを待っていたのは、我らが隊長、イザーク・ジュールによる怒りの一撃だった。

「な、な、何だよいきなり!!」

それを紙一重でかわしてイザークを見ると、彼は殴る媒体を失ったおかげでバランスを崩し、ちょうど廊下に思いっきり倒れていったところだった。

――べしゃっ、という効果音すら聞こえてきそうなほど、豪快に。

「隊長っ!! 大丈夫ですか?!」

当たり前のように、シホがイザークに駆け寄る。

「ディアッカ!! あんた何考えてるの?! あんたが避けたおかげで、隊長転んじゃったじゃない!!」
「俺のせいか?! これ全部、俺のせいか!!」
「シホっちの思考回路から行くと、完全に先輩のせいですね」

あわてた素振りも無く、ヤナックは言い切った。
一方、倒れるイザークを眺めながらディアッカは首を傾げる。

「……で? どうしてうちの隊長殿は、俺に殴りかかってきたわけ?」

何か、イザークの怒りを買うようなことをしただろうか。
考えていると、愛すべき後輩が、これまたのんびりと答えてくれた。

「先輩に殴りかかったんじゃなくて、ドアに八つ当たりしようとしてたんですよ」
「はぁ?!」

眉が軽くつりあがった。
八つ当たりとはまた……イザークらしいと言えばそれで終わってしまうが、ディアッカが席を外したのは約五分。その間に一体、何があったというのか。

「ほら、今日、新人さん入ってくるって言ってたじゃないですか」
「ああ……そんな話もあったな」
「あれ、無くなったんですよ。てゆーか、とられちゃったみたいで」
「とられた? どこに」
「ウーレス隊のコズマさんに」
「――――」

ディアッカは、哀れみの視線をイザークに向け、同時に頭を抱えてしまった。
ウーレス隊とはまた……厄介な。
かの隊は、ジュール隊とかなりの因縁を持っている。
まず、隊長同士の仲がかなり悪い。次に、ジュール隊が行っていた仕事を横から奪い取っていく率が、非常に高かったりする。おまけに、奪い取った任務はほぼ成功しているところがまた……悔しさ満点だ。

「……とられた理由は?」
「こっちは『赤』二人――プラス、元『赤』がいるじゃないですか」
「それは嫌味か? ヤナックよ」
「そういう風に言われたんですよ」

悪意の全く無いやり取りの中に、不思議な火花が散ってる気がするのは何故だろう。

「一方でウーレス隊には、現在『赤』が一人しかいません。人数的に考えても、ウーレス隊に行くのが的確だ、とかなんとか」
「人数的に考えて……も?」
「も、です」

嫌な予感がする。

「……も、ってことは、まだ理由があるんだよな?」
「これがまた腹立たしいことこの上ないんですけど……どう贔屓目に見たって、ウーレス隊の方が実績上らしくて、そこが一番大きな理由なんですって。あー、むかつく」

笑顔の割に、目が笑っていないヤナック。
これは自分のいない間に、相当の嫌味をもらったようだ。


そして、イザークがキレた。


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