シン






「これが……Lシステム……」
《正確には、核エネルギー誘導体だな。しかし、これは……》

アーサーの声が、耳を通り抜けていく。シンは「移動要塞メサイア」のような姿を想像していたため、あまりのギャップに思考を停止させかけた。

《いや、大きいのは分かっていたが、実際見ると……》

まるで第三の衛星のような姿だ。
黒く大きな球体。その中心は亀裂が入り、ゆっくり入り口があいていく。
多分、砲門。
だがそれが完全に姿を現す前に、その周りの小さな扉が次々と開き、こちらに向かって攻撃を始める。


これが、レイが危険視していた防衛ライン――


すかさずミネルバが迎撃体制に入る。艦は全砲門を解き放ち、次々と撃ち落していった。
だが、迎撃は出来ても、防衛ラインを崩しきれない。

《シン、少し下がってくれ!》

アーサーの声に促されてミネルバを見ると、ブリッジの上から、巨大なビーム砲が浮かび上がっていた。


《――ぅてええええぃッ!!》


少し緊張した艦長の号令で、一筋の光がLシステムに伸びた。光の傍で――撃たれた弾丸がはじけているのだろう。小さな爆発がいくつも起きている。
しかし、Lシステムには傷一つついていない。

《ええい! もう一度!!》

よほど自信があったのだろうか。攻撃があまり効いていないおかげで、アーサーの声に焦りが滲む。
一方で、シンは一つの可能性を導き出していた。
ミネルバの攻撃で、少なくとも防衛システムは動きを止める。すぐ稼動しても、そこに隙が出来ることに変わりは無い。
なら、そのタイミングでLシステムに向かえば……より近い場所から、攻撃が出来る。


これしかない、とシンは思った。


《てええええッ》

光がほとばしる。
シンが、加速レバーに手をかける。
その時、はるか後方から、強烈なスピードで飛び込んでくる機体が現れた。それはシンを、そしてミネルバをかわし、まるで光に沿うように、Lシステムへと突っ込んでいく。
飛来するは――フリーダム。

「くそっ!!」

一足遅れ、シンも飛び出した。

《シン、お前どこに向かってるんだ!!》
「砲門の中から、直接攻撃します!」
《何を馬鹿なことを言い出すんだ、君は!!》

アーサーは、声をひっくり返して反論した。

《撃たれたらどうするんだ!》
「撃たれたら、そこで全て終わります。それに――」

こんなこと、言ってはいけないのかもしれない。
考えてもいけないと思う。
でも、これは、シンの中に芽生えた本音。


「……それに、フリーダムを野放しになんて、出来ません!」





*前次#
戻る0

- 152 /189-