シン 「うわっ……」 「慌てるな、シン。まだ時間に余裕はある」 赤い照明が、辺りを照らす。警報のように回り続ける。シンとレイは、そんな中を走っていた。 シンの腕の中には、ぐったりするメイリンの姿もある。 自爆装置が起動したことで、二人はエルザの中からの制御を切り捨て、ここから脱出することにした。崩壊が始まっているのか、足場は少しずつ安定感を失っていく。それでもシンは、出来るだけメイリンの負担にならないよう、慎重に、かつ急いで。 MSを乗り捨てたドッグらしき場所にたどり着くと、揺らぎは更に大きくなった。 「シンはメイリンを安全なところに!」 「お前はどうするんだよ」 「直接、Lシステムを叩く」 決意強く、レジェンドに乗り込むレイ。するとシンは、彼を追い、半ば無理やりメイリンをレジェンドに押し込んだ。 「おい、シン……!」 「Lシステムには俺が行く」 「何を言って……」 「Lシステムを簡単に叩けるんなら、お前、最初からそっちに行ってるだろ。それをしなかったってことは、多少のリスクを背負ってでも、エルザから制御するのが一番だと思ったからだ。違うか?」 シンが断言する。あまりにはっきりと告げられて、レイは反論の期を失ってしまった。 その通りである。ライドンがエルザにいることを、レイは知っていた。それでもこちらを選んだのは、より安全で、より正確だったから。 「Lシステムが、どれほどの防衛ラインを敷いているか、分かっていないだろう……」 「知らねーけど、レイより生きて帰ってくる率は高いさ」 あきれるほど明るく、彼は言った。 「だってお前、死ぬ気だろ?」 それは予言のごとく。 レイが何も言い返すこと無く目を伏せたのは、シンの言う通り、死場を求めているから。 「生きて帰ってくる気がない奴より、多少能力は劣っても、生きて帰る意志のある奴のほうが、生存率高いしさ」 「変わらないさ、そんなの……今日死ななくたって、俺はもう……」 「だからどうした。生きてるんだから、生きれるだけ生きろよ」 しっかりとメイリンを抱かせ、シンは強く、レイの両の肩を掴んだ。 「良いか? お前がメイリンを助けるんだ。メイリンを守れるのは、レイだけだ」 まるで呪文だ。レイを死なせないための、そしてメイリンを助けるための呪文。 これは大きな賭けである。シンの言うことをレイが聞いてくれるかどうか。聞いてくれれば、レイは生きる道を選ぶ。聞いてくれなければ、最悪――メイリンを道連れにする形で、少しだけ早い死を選んでしまう。 レイの中で、どれだけメイリンの存在が大きいものか、そこに全てがかかっている、危うい賭けだ。 死なないでくれ。 頼むから、生きる道を選んでくれ。 そう願いながら、シンはもう一度、呪文を唱えた。 「メイリンを死なせたら……許さないからな!」 強く言い聞かせ、シンはレジェンドから離れた。 メイリンを離すな。追ってくるな。ドクン、ドクンと響く大きな心音を感じながら、綱渡りの賭けの始まり見守る。 |