紅乙女 「ちょっと、いきなり――」 「これ、は――」 非難の目を向けるルナマリアとは対照的に、アスランの表情は、驚愕のそれに変わっていく。 「まさかシン……これを読んだのか……?!」 「何なんですか? その手紙は」 彼女の問いかけに、アスランは答えない。 ムッとして、ルナマリアは手紙を――覗き込もうとしたが身長差の関係で見ることが出来ず、止む無く封筒を隠れ見た。 差出人は―― 「――ギルバート・デュランダル?!」 『?!』 大声を出すルナマリアにつられ、ヨウランとヴィーノも驚きの眼差しをアスランに向けた。 「なんで議長が、シンに手紙なんか……」 「何が書いてあるんですか?!」 問い詰めるルナマリア。しかしアスランは、非情な言葉を彼女にかける。 「君には関係の無いことだ」 「あなたにそんな事を言われる覚えは――」 「ここには軍の重要機密が書かれている」 シンに関して言えば、アスランはルナマリアに対し、とやかく言う権限を持っていない。 しかしそこに、機密が関わってくると……そうはいかないのだ。 「ヨウランとヴィーノはザフトの人間だが、君は違うだろう? 一般人を前に、機密事項を話すわけにはいかない」 「!!」 アスランの言うことは分かる。メサイア戦後、軍に残る道を選んだヨウランとヴィーノに対し、除隊したルナマリアはただの一般人。本来なら、寮に入ることすら出来ないのだ。 それは分かるが、その言い方は、まるで―― 「……ザフトに戻るなら、話すってことですか」 「おい、ルナ! お前……」 「ヴィーノは黙ってて」 アスランから目を離さず、ヴィーノを制すルナマリア。 そこには心の葛藤があった。 戻るか、戻らないか。 手紙の内容を知りたい――そのためだけに、戻ると決断を下すのか。 絶対に戻らないと決めたのに、こんな一瞬の、気の迷いみたいなことで。 でも。 ……でも。 どこかにある、戻りたいという願い。 「決断しろ、ルナマリア。戻るか、戻らないか」 「卑怯です」 「何とでも言ってくれ」 「…………」 自分のやってることの愚かさに、アスランは何の弁解もしない。 だからこそ、分かってしまった。 それだけ自分が、必要とされていると。 どんな手段を使っても引き戻したい――彼がそう、考えていると。 「分かりました」 「ルナ!!」 挑むような目で、ルナマリアはアスランを睨みつけていた。 そんなに必要なら、意地でも役に立ってやる――と。 こうしてルナマリアは、女の意地全開で、ザフトへの復隊を決めた。 「……どうした?」 「……本当に、復隊したんだな、と思って」 「そんなに実感無いか?」 「私じゃなくて――あなたの」 時を元に戻して一週間後、ザフト本部を堂々と闊歩するアスランを見て、ルナマリアは顔をしかめてしまった。 どうしても違和感がある。彼が本部にいることに。 「周りから、不満は出ないんですか?」 「実際、俺はそんなに顔知られてないんだよ」 「私は知ってましたけど?」 「それは……君が特別なんだろ」 「…………」 くすぐったいはぐらかされ方をされ、彼女は顔を伏せてしまう。 特別なんて――言われたことが無い。 「……それより、私はミネルバに戻るんですか?」 「最終的にはそうなるだろうが、当面は、別の隊に入ってもらう」 「別の……どこですか?」 「ああ、ちょうど着いた」 アスランの足が、ある扉の前で止まる。 ――ブリーフィングルームの前で。 「失礼します」 「待ちくたびれたぞ」 ノックとともに扉を開けると、二人は長身の男に出迎えられた。 年の頃なら二十代後半、隊長服の映える短い黒髪の男。 名を――コズマ・ウーレス。 「ウーレス隊へようこそ、ルナマリア・ホーク」 「よろしく、お願いします……」 握手を求められ、ルナマリアは恐々と手を差し出した。 |