伝説の嘆き






「メイリンって、結構無茶するよな……」
「うん。私もそう思う」

走りながら、メイリンはシンに、自分がここに来るまでの道のりを話していた。
聞き終えた直後の感想が、これである。
久しぶりのメイリンとの会話。自分でも驚くほどの自然な会話は、それはそれは物騒なもので、シンは不思議な感覚で満たされていた。

「シンは、どうやって?」
「いやまあ、話すとかなり長くなるんだけど……」

言いながら、レイを見る。
ずっとずっと、苦しそうな姿のレイを。
彼はずっと辛そうだ。

「俺は――」

言おうとした瞬間、二人の注目が、話の議題からレイの動向に変わった。
先行していたレイが止まる。彼の指が叩くのは、壁につけられたキーパッド。何度か叩くと、彼の前に佇む扉が開け放たれた。
共に、シンとメイリンも入っていく。
管制室のような部屋だった。メインモニタに映るのは、宇宙空間。そこに浮かぶのは、岩の塊。人工物のように見える、綺麗な球体だ。

「なんだ? あの岩」
「あれを監視してるみたいだけど……」
「……それが、Lシステムの本体だ」

何も知らない二人に、レイが説明する。

「制御の『エルザ』。動力の『レベッカ』。二つの衛星を使って正三角形を描いた頂点に、これがある。
……メイリン、さっき、ウィルスプログラムとか言ってたな?」
「え? うん……これ、だけど……」

それは、シンに事情説明をしている際に飛び出した言葉だ。拒絶しながらしっかり聞いていたレイに、メイリンはおずおずとディスクを渡す。
そして、シンが切り出した。

「……なあ、レイ。どうして、全部一人でやろうとするんだ?」

全てを遠ざけて。
たった一人で、ここまで来ようとしたレイ。
何度聞いても答えの返ってこなかった質問を、この場で再度、試みる。


「エルザに来たのも、あれを破壊するためだろ?」



最初はライドンかとも思ったが、違う。レイが目指していたのは、最初から『ここ』だった。
一目散にエルザに来て――ここを目指していた。
ならば理由は、起動か破壊のどちらかしかない。
すると、キーに指を置きかけたレイが、その動きを止め、変わりに口を動かした。


「……これは、ギルバート・デュランダルが造ったものだ」



小さく、ささやく様に話す。



「俺が終わらせなくちゃならないんだ。これ以上、ギルの罪を増やさないように」





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