女神降臨






ミネルバの中は、大混乱になっていた。メイリンは頭を抑え、壁に身を預け、意識をしっかり保とうとする。
どこからとも無く現れた攻撃の嵐。それがエルザから放たれていると分かった時には、ミネルバの右翼が破損。航行不可の状況にまで追い込まれてしまった。
ゆえにミネルバは決断した。
せめて、エルザに降りようと。エルザに降りさえすれば、まだLシステムを止める道は開ける、と。

「大丈夫か? メイリン」
「平気……でも、どうなったの……? ミネルバ、大丈夫なの?」
「うん……」

苦い顔をして、ヴィーノは目を伏せる。
鳴り止まない警報音。破損箇所が続々と放送に乗っている。クルーはこれから、艦の補修活動に当たらなければならない。ヴィーノもそうだ。

「……けど、このままじゃ……Lシステムを撃たれちまう……」
「ねえ、Lシステムってなんなの? それが撃たれると、どうなるの?!」

こんな時だが――こんな時だからこそ、メイリンは問いただした。
知っておかなければならない。なぜこんな危ない状況になってまで、『Lシステム』のためにミネルバの仲間達が動いているのか。
ヴィーノは、戸惑いながらも口を開く。

「Lシステムは……核エネルギーを使った粒子砲なんだ。地球が射程内に入るほど、攻撃出来る範囲が広いんだよ」
「そんな物が……こんな近くに?!」

メイリンは身体を震るわせた。
全大戦が、その前の戦争、ユニウスセブンの悲劇……色々な事象が、頭の中を駆けていく。

「で、この衛星エルザが制御装置で、レベッカがエネルギー供給ラインになってて、二つの衛星のちょうど真ん中に、Lシステムの砲撃がある。だからほんとは、その大元を叩ければ良いんだけど……」
「出来ないの?」
「防衛ラインの攻略が大変らしいんだ。とにかくこっちのシステムをどうにかしてからじゃないと、近づくことすら困難みたいでさ」
「じゃ、これからどうするの?! LKSとかって武器、生きてるの?!」
「いや――……生きてはいるけど、修理に時間がかかりすぎる。俺達がエルザに攻撃を仕掛けたって知られた以上、向こうもそのままでいる訳ないし……」


撃たれる可能性がある。
核エネルギーを、またも、この宇宙に。
向こうが撃つ気になれば、こちらの修理など間に合わないだろう。


「もう、システム止める方法無いの??」
「直接止めに行くしか……でも、このままじゃ……」

とにかく、ミネルバ自体の破損頻度が強すぎる。最低限の修復が最重要となる中、直接止めに行く人材を確保することなど、容易い事ではない。
一刻も早く簡易的にでも修繕しないと、最悪、ライフラインが止まる可能性だってある破損具合だ。


「直接止めるって……簡単に出来ることなの?」
「制御システムにさえ潜り込めれば、あとはこのウィルスを植えつけるだけ、なんだけどな」

引き出しから一枚のディスクを取り出し、ヴィーノが苦笑する。

「シンや……レイがいてくれたらな……」



もしここに、彼らがいたら。
そしたら、信頼して送り出せるのに。


そんなヴィーノを横目に、メイリンは質問を続ける。

「……その、制御盤の場所は?」
「えーと、確か……ああ、これこれ。ここだ」

コンソールを動かし、エルザの見取り図を出す。そして中央部分の一角を指差した。

「ここが制御装置」
「私達が今いるのは?」
「ここ」

彼の指は、その真上を辿った。
ミネルバのほぼ真下に、制御装置の姿。
ごくり、とメイリンは息を呑んだ。

「おい、ヴィーノ!! しゃべってる暇あるなら、さっさと動け!!」
「分かってるよ!! で、誰が止めに行くんだよ、あれ!!」
「艦長直々に行くってよ! あのディスク、用意しといてやって」

と、ヨウランの声が響いた時だった。


「私が行くよ」
「え――あ!!」

ヴィーノが気を抜いた一瞬のうちに、メイリンが彼からディスクを奪い取り――そしてデッキへと走った。





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