女神降臨




開かれたエルザの砲門の中に、ミネルバが全体を飲み込まれている。




「……無理矢理突っ込んできたか。エルザの重要性を認識しているな」

ライドンはもう一度、携帯モニタに目をやった。その画面に、満足の冷笑をもらし、数回ボタンを押す。
すると、今度は彼らの立つ床が動き始めた。

「さて、そろそろ退散するかな」

言って、足を一歩引く。
同時に、ライドンとシンたちを分けるように、床が亀裂が走った。

「今度は何――」

亀裂から、床は少しずつ壁側へと動いていく。それは3メートルほどで動きを止め、下層部から、大きな筒のような物が天井へと伸びていった。
つられて上を見やれば、天井も床とまったく同じように開いている。

「これは……?」
「……Lシステムの起動装置……?! なぜ、こんな短時間で――」
「エルザの力、とでも言っておくか」

筒の裏側から、ライドンの声が聞こえる。

「どうせザフトへ納入するんだ。兵器以外の面でも、モニタリングさせてもらおうと思って、色々機能をつけておいたんだよ……『ブースター』とか、な」

ブースター……つまり、エネルギーの増幅装置。

「たとえばの話、宇宙で大規模な戦闘が起こったとしよう。その時、ザフトに試作機としてではなく、本格的に『ローズシリーズ』が納入され、一個部隊ほどの機体が出撃したら……その全てのブースターを作動させれば、それだけで大きなスイッチとなる。戦場に出ているあらゆる兵器を、こちらで操作できる夢の起爆スイッチだ。今回はそれを応用して、Lシステムの制御装置を稼動させたんだよ」

筒がゆっくり、光りだす。

「さすがに、内部にブースターがあると充電が早いな。レベッカも起動し始めた。
 ……で? どうする? このままだとLシステムが火を放ち、たくさんの人間が死ぬぞ?」
「させるか」

詰め寄るのは、レイ。
これまでの、どの表情よりも厳しい姿で。

「絶対に、止める」
「できるものならやってみろ。難しいぞ? 制御装置の操作は。制御盤の元まで行くのも、かなり時間がかかるだろうしな」
「そんなの、これを壊せば――」
「無駄だ、シン。これを壊しても、システムは止まらない」

レイの言葉に笑いながら、ライドンはまたも足を引いた。
そう。ここにあるのは制御装置の一部。この場でLシステムを止めるのは、事実上不可能である。
制御装置に行かないと、システムは止められない。
ライドンを追っていたら、Lシステムの停止が間に合わなくなるかもしれない。
二つに一つの選択――それは、迷っている時間すらなかった。

「そうそう、もう一つ言っておくことがあった。ミリアリア・ハウ! ちゃんと観ているか?!」

ライドンは突然、あらぬ方向に目を向け、叫んだ。
彼の目が捕らえるのは、小さなカメラ。きっとディアッカとミリアリアが観ているはずの、監視カメラだ。
そこに向かって、ライドンは不吉な言葉をささげた。

「後で迎えに行く。それまで死なないでくれよ? 君の中には、大事な大事な遺伝子が生まれつつあるのだから。決して負けずに。決して、細胞に殺されないように」

その瞬間、ライドンの姿は壁の奥に消え去ってしまった。






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