女神降臨



レイはルナマリアと連携し、ライドンを追い詰める。武器を持たないシンは、内部から砲撃を制御する場所が無いかを探した。しかしこの場は大型のホール状という環境。そんなもの、どこにも見当たらない。

「くっそ……」

自分には何も出来ないのか。ミネルバが落ちるのを、黙って見ていることしか出来ないのか――苦しみながら、視線をライドンに向けた。
その戦況に、シンは焦りを感じる。銃を構えながら、一度も発砲しないライドン。片や、徐々に追い詰めていっている感のあるレイとルナマリア。だからこその不安だ。
レイもルナマリアも感づいている。だからこそ、ライドンの真意を測るため、発砲を控えている。

「どうした? 俺を止めたいんじゃないのか?」
「くっ……」

撃たないことを良いことに、ライドンはその動きを止めた。

「早くしないと、ミネルバが落ちるぞ?」
「そんなこと――」
「ルナ!」

焦り、銃口を向けるルナマリアを、シンが制した。銃を押さえ、そして――指を引き金にかける。

「……シン……?」

ルナマリアがシンを見上げる。
真剣なまなざしが射抜くのは、直線状で微笑んでいるライドンだけ。この隙に、とレイが銃を構え直すが、撃つことが出来ない。
意識を二人に集中させているように見えて、その実ライドンが一番警戒しているのは、レイだ。
一番、油断なら無い存在。彼を抑えれば、他はどうとなるとさえ思っている。ゆえにレイの動きに敏感になり、レイもまた、ライドンから放たれる敵意の鋭さに、引き金に指をかけられないでいる。
かけたら――撃たれる。


「……で? お前はそれを撃てるのか?」


大して面白くなさそうに、ライドンが尋ねる。
シンに。
氷結の瞳で。

「お前が、それを撃つのか?」
「……撃ちたく、ない」

呟くのは、魂の叫びか。

「撃ちたくない。こんなもの、持ちたくも無い。でも、これしか、貴方を止める方法が無いなら……」

どうすれば良いのか分からない。
分からないけど――こうする方法しか見つけられない。

「つまり、話し合いで解決しないなら実力行使に出る、というわけだな? 身勝手な話だ」
「……じゃあ、どうしたら貴方は止まってくれるんだ?
 どうしたら……その憎しみを、消し去ってくれるんだ?」
「…………?」

思わぬ言葉に、ライドンの米神がひきつる。
シンは探した。ミネルバを救う術を。そしてライドンを救う方法を。
頭の中で考えても、決して見つかることの無い後者の考え。

「大切な人を奪われた憎しみは、どうやったら消し去れるんだ……??」
「シン……」

隣で震えるシンに、ルナマリアが手を伸ばしかけた――その時だった。




ズンッ!!




衛星エルザに、先ほどよりもはるかに大きな振動が襲った。

「今度は何?!」
「……ミネルバ……」

長く続く振動の波が、立っていることすら危うくさせる。そんな中、レイの呟きが、やけに大きくシンの耳に届く。
スクリーンを目に、シンの表情が凍り付いていく。
映し出されているのは、見たくない現実だった。

ミネルバが、煙を上げ、墜落している。




この――衛星、エルザに。





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