女神降臨







「ミネルバ……」


レイが呟く。
シン、レイ、ルナマリア――この三人を繋ぐ戦闘艦が、今、宇宙に出ている。
それは、因果か。

不思議な思いの中、ミネルバを眺める三人を他所に、ライドンは少々、顔をしかめた。
ミネルバに、あまり歓迎したくない兵器を見つけて。
彼は思った。議長代理殿は、本当に無茶をする、と。これの存在は公になっていない。発動させる予兆すら見せていない。なのに「あんなもの」を戦艦に装備させ、突っ込んでくるなど……議会の承認など、かけてすらいないだろうな、と推測できてしまう。
まるで、厄介ごとを一気に片付けようとしているみたいだ。

――と議長代理について色々考えをめぐらせてはみたが、今のライドンにとって、彼はどうでも良い存在だ。無茶をしようが彼の勝手。やりたいようにやれば良い。
あれを発動されると、計画に大きな弊害が訪れてしまうが、逆に言えば、発動されなければ問題は無い。
そう。発動させなければ良いのだ。



「……ルナマリアがいる、ということは……『エルザ』が中にあるな……?」



小さすぎて、操縦士であるルナマリアまで届かない声で呟いたのは、心の中に留めようとした無意識下の考え。三人がミネルバに意識をとられている事を良いことに、自身のパソコンと機能リンクしている携帯モニタで、ドッグを確認した。そこにはデスティニー、レジェンド、そして『エルザ』があって。
にやり、とライドンは冷笑をもらした。

「常に最悪を予見して動くものだな……」
「何?」
「念には念を、ということだ」

笑い、ライドンはピッ、とボタンを押した。
刹那、エルザは地震のような振動に襲われた。


「な、何?!」
「なんてことはない。ただ、ミネルバ撃墜のための砲撃を開いている余波だ。気にするな」
『!!!!』


その瞬間、三人は驚愕した。
ミネルバを――撃墜など――


「――エルザには、そんなもの無いはずだ!」
「分かってないな、レイ。エルザは『制御装置』だぞ? 『エネルギー源』であるレベッカ同様、強固な防衛ラインを引いておかないとな」


動揺を隠そうとするレイとは対照的に、ライドンはひどく余裕の表情で対応した。
問題はたくさん吹き出てくるが、全ては許容範囲内。確かに今回の一件で、ライドンはプラントでの自分の地位を失った。デュッセルカンパニーの再建も難しいだろう。良い手駒だった海賊旅団も、壊滅必至だ。
けれど、それらは全て、取るに足りないこと。
彼にとって大事なことは、研究資料と研究場所、そして資金源の三つのみ。資金と資料さえあれば、どうとでも動けるのだ。


シンが持ち歩いていたデュランダルの手記から、のどから手が出るほど欲しかった資料の場所が判明した。
隠し財産は山のようにある。[オーブの機密]という格好の餌も、もうじき手に入る。
あとは、痛みを与えるだけ。





絶望を植えつけるだけ――





「教官ッ!!」

大型スクリーンにミネルバが攻撃されている姿が映る中、攻防戦が始まった。
ミネルバを落とさせはしない――落としてほしくない。





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