女神降臨







激化を辿る戦火を前に、一隻の船が、戦地から離れていく。
それは、戦艦ミネルバ。偶然乗り合わせてしまったメイリンには、あまり理解の出来ない航海がであった。


「……ねえ、どうしてミネルバ、戦闘海域から離れていくの?」
「そりゃ、目的地が別だからな」

彼女の質問に、コンソールとにらめっこするヴィーノが告げる。

「俺らは、戦闘に介入するために出撃したんじゃないんだよ」
「じゃ、どこに向かってるの?」
「衛星エルザ」

ヴィーノは巧みにコンソールを操り、何やら機械を起動させていく。サブモニタに現れる熱源上昇のランプ。どうやら何かのエネルギーを充電しているようだ。

「艦長! 準備できました!」
《よし! LKS起動!!》
「!」

艦長、と呼ばれ、メインモニタに現れたアーサーの姿に、メイリンは少々驚いてしまった。
彼がミネルバの艦長になったことは知っていた。先ほども、通信機越しではあるが挨拶もした。けれど、どうも「アーサー」=「艦長」の図式がしっくり来ない。副長時代の、なんとも危ういアーサーを、ブリッジでよく見かけていたからだろうか。
だが現実、彼はこの船の主である。なのにアーサーが艦長という任に着いていることに違和感がある、などと思っては失礼だ。その意思を払うためにも、彼女は別の疑問に目を向けた。

「ねえ、『LKS』って何?」
「んーと……簡単に言っちゃうと、Lシステムを稼動できなくさせる伝導体ってゆーか……」
《――おいおい! 何一般人にぺらぺら喋ってるんだ!!》

ヴィーノが仕事をしながら、まるで世間話のようにミッションの内容を話すので、アーサーは慌てた。いくら元クルーとはいえ、軍を抜けた人間に指令内容を話すのは好ましくない。
しかし、ヴィーノはしれっと返す。


「て言っても、乗ってるし、ここにいるし。状況くらい知らせたって……」
《駄目なものは駄目だ!!》


アーサーは諭すが――威厳はまったく無い。
そうこうしている内に、サブモニタにミネルバの電子図が開かれた。砲弾などを発射するとき、ハッチを開くときなど、艦体が特別な動きをする時に開かれる見取り図は、ミネルバの先端から、何やら装置らしきものが出現するさまを描いていった。
そしてまさに、今、ミネルバの先端部分から、砲台のようなものが出つつある。
レーザー砲の口径にも近い姿の兵器。メイリンは、これが彼らの言う「LKS」だと直感する。


「これ以上、あんなもの撃たせてたまるか……!」


ヴィーノの呟きが、メイリンの耳に強く響いた。






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