女神降臨







「……答えられないようだな」

一方、エルザの内部ではこう着状態が続いていた。
ライドンと、レイと、シンの。

「俺の勝ちで、決まりかな?」

いつでも発砲できる体勢のライドンを前に、レイは対応に苦慮していた。ライドンの射撃能力を、レイは良く知っている。もし撃たれたら――考えるだけで、頭が痛い。


撃たれたら、確実に大切なものが傷つけられる。


方や二人の間に挟まれる状態のシンは、その銃口を向けられながら、ひたすらライドンを見ていた。
言葉も無く、じっと。

「……なんだ? その目は」

シンの瞳は、ライドンを不快にさせた。
無垢な視線は、哀れみのまなざしにも感じる。

「……その目をやめろ、シン」

引き金に指が乗る。けれどシンは、そのままライドンを見続けた。
哀れんでいるわけではない。不幸な境遇に同情しているわけでもない。
気付いただけだ。
自分とライドンが、極めて近い『悲しみ』を背負っていることに。
彼の悲しみに共鳴できるからこそ、シンは声を放つ術を失っていた。

一向に態度を改めないシンに、ライドンは奥歯をかみ締める。

「お前はいつまで、俺を苦しめれば気が済むんだ!!」
「――伏せろ、シン!!」

ライドンの凶器が暴走する。レイがシンを守ろうと動き出す。そんな状態になっても、シンは「一番正しい状況判断」を見つけようとすら出来なかった。
考えることはただ一つ。



どうすれば、この人を――ライドンを救えるのか――



「シン!!」

後方から、レイの声が通り抜けていく。そして、



「やめてえええええっ!!」
『?1』



ライドンの後方から、声が響いた。
隠れて話を聞くことしか出来なかった『四人目』が、涙ながらに姿を見せる。
銃を構えながら。


「もう止めてください、教官!!」
「ル、ナ……?」


一瞬にして静まり返ったホールに、シンの声が響く。
聞くだけの状況に耐えられなくなり、姿を現したルナマリア。ここにいると考えもしなかった彼女の存在に、彼らは思考を停止せざるを得なかった。
頭が情報を求める。

「……よく、ここまで来たな、ルナマリア……」

硬直から抜け出したライドンが、ルナマリアを見た――その時、事態は再び急変させられた。
ルナマリアの登場だけでも驚いたのに、ライドンの下ろした大型スクリーンに、またも予想しなかった大型艦が飛び込んできたのだ。


「…………ぇ?」


小さく声を出したのは、ルナマリア。
彼女も聞いていなかった事態が起きている。ザフトとして、一連の作戦を聞いていた彼女でさえ、あの艦の稼動は聞いていなかった。


スクリーンに映るのは、ミネルバ。
ミネルバが――衛星エルザに刻々と近づいている姿だった。






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