女神降臨





「っのおおおおおおお!!」


咆哮一閃、ヤナックのブレードが敵機の武器を破壊する。

戦闘は、激化の一途を辿っていた。
レジェンド改式を沈黙させ、周りのMSの戦闘能力も奪い、制圧は時間の問題――と思われた矢先、別の戦闘区域で戦っていた敵部隊が登場。わずか三機のMSに対し、数えることすら面倒なほどのMSが現れてしまい、彼らは再び窮地に陥っていた。
一つ一つ、確実に戦闘意欲を奪っていくしかない。
そんな折、ルタの機体に敵機が集中した。


「ルタ!!」


叫んだ瞬間、遠くから閃光が訪れる。やって来たのは三機のMS。
それはどれも、ヤナックが見覚えのある機体だった。

《無事か?!》
《ジュール隊長……ありがとうございます》
「隊長?!」

到着と同時に、ルタと敵機の間に割って入ったザフト機には、イザークが乗っていた。残る二機はフリーダムとレベッカ。心強い援軍だ。
これから一気に形勢逆転――と思ったが、


《?! ヤナック!! 貴様、なぜ敵機に乗っている?! それ以前に、カンパニー内部班の貴様が、宇宙に出てるとはどういうことだ?!》
「色々あったんです! あんまり気にしないでください!!」

イザークから入ったクレームに、ヤナックは適当に答えた。一から話していては、時間がもったいない。

《後でしっかり説明してもらうからな……ところで、エルザはどこだ?》
「え、俺は見てな……」
《彼女なら、衛星エルザに向かいました》

ヤナックに向けられた質問に、ルタが答える。
それを回線越しに聞いていたアスランは、みるみる内に顔色を青くしていった。


「エルザに……? まずい……もしライドンに気づかれたら……」
《行って、アスラン!》

アスランの様子に逸早く気付いたキラが、彼を後押しした。

《ここは僕が守るから、早く!》
「――すまない!」


一瞬躊躇した後、アスランは衛星へと飛び出した。
どれだけ時間が経っているか分からない以上、ただ急ぐしかない。
ローズシリーズは、ただの「ザク改良機」ではないのだから。
試作機である[エルザ]と[レベッカ]には、とんでもない仕掛けがある。何も知らない状況で、エルザの中に[エルザ]が入ったら――


撃たせてはならない。その思いだけで、アスランは宇宙を飛んでいく。


そして、アスランを見送ったキラは、戦いながら戦場に目を向け――苦しい顔を見せた。


「……イザークさん。戦闘不能になった敵機を回収しないと……このままじゃ、身動き取れなくなります」
《緊急要請は出した。そろそろ着く頃だと思うが……》


これから収容されていく賊兵達。彼らはこの破壊されたMSを傷つけないように戦っているが、敵機は違う。そこまで細やかな気遣いを見せてはくれない。
庇いながらの攻防は、明らかに不利だ。

「ところで、さっきの……えーと、ヤナックさんの後ろにいる機体……それもザフトの識別コードが読み取れないんだけど、同じザフトの方が乗ってるんですか?」
《え? ああ、そうですけど……》

おずおずとキラが尋ね、ヤナックが頷く。識別コードが確認できない以上敵の機体なのだが、同じ状態のヤナックが味方機であるので、キラは判別に苦しむところがあったのだ。
だが、こちらを攻撃する様子も無い。
というか、動く様子が無い。

《……シホっち?》
《シホ?! 貴様も宇宙に上がっているのか!!》

様子を伺うヤナックの声に、シホが乗ってると知って驚いたイザークの声が続く。
しかし、シホから応答は無い。
ここで初めてヤナックは、シホの異変に気がついた。回線を繋ぎ、彼女の様子を確認したヤナックに。冷たいものが流れる。
彼女は、腹部を押さえ、顔をゆがめていた。


息が乱れる。
静かに呼吸が出来ない。


《シホっち――何やってんだよ、苦しいなら苦しいって言わないと――》
「別に……平気よ……」

かろうじて出せた声は、「平気」という単語がとても不釣合いなもので、

《シホ! 傷口が開いたか?1》
「隊長……平気です。問題、ありません……」
《どこが平気だ!!》

怒号にも似たイザークの声に、シホは言葉を返せない。
にじむ冷や汗。肩でしか呼吸は出来ず、押さえる腹部からは、赤い血が染み出し――……

「申し訳、ありません……隊長……お役に、たて、なくて……」
《もういい、しゃべるな! ヤナック!! すぐにシホを母艦に収容しろ!!》
《は、はい!!》

遠のく意識に、二人の声が聞こえた。







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