君のための正義




そして、こちらも。


《ザフトが、良い気になってんじゃねえっ!!》
「それはこっちの台詞よ!!」


レジェンド改を相手に、シホは防戦一方となっていた。操縦技術はまだシホの方が上に見えるが、如何せん、機体の性能に差がありすぎる。
けど、退くわけにはいかないし、そんなの彼女のプライドが許さない。

「あんた達みたいな下種な奴らのおかげで、こっちはこんな、血生臭い仕事しなくちゃなんないのよ!!」
《下種はそっちだろ!!》

アネハから、思わぬ反撃が出る。

《何が正義だ。何が大義だ! 俺達よりよっぽど性質悪ィこと言いやがって!!》
「なっにをふざけたことを――」
《お前らなんか、ただ『人殺し』を正当化してるだけじゃねーか!!》
『――――』

その言葉にシホ、そして回線を共有して通信可能状態にしているルタとヤナックは、言葉を失った。

《今ここで俺が死んだって、犯罪者だから、で片付くんだろ?! お前らだって、名誉の戦死ってことで終わる……一人も二人も変わらないなんて、おかしいじゃねーか!!》


――自分達の仕事は、人の命を脅かしている――
その現実に、ヤナックが唇を噛む。
ルタもまた、苦しい顔を見せながら、自分を取り囲む敵を相手に戦っている。
シホは――アネハの激しい攻撃を受け流すので精一杯。


《俺の兄貴は、地球まで送り出されて戦死した。姉貴は、偽者のラクス・クラインを守って死んだ! 親父とお袋は、メサイアの攻防戦で殺された!! なのに、何が大義だ! そんなもののために殺されて、負けたら「戦争は間違ってた」だ?! ふざけんのもいい加減にしろ!!》


それは、アネハの魂の叫び。
戦争は間違っていた。戦争があったから、自分の華族はみんな死んでいった。最初は彼も、異論など唱えなかった。けれど、時が経てば経つほど思ってしまう。

戦争は間違いだった。
言い方を変えると、自分の家族は「間違って死んでいった」ということではないのか?
悔しくなる。
あれだけ一生懸命だったのに、あれだけ「プラントのために」と命を張り、そして死んでしまったのに……家族の生き様まで否定されている気がして、苛立ちはどんどん募っていく。


《こんな世界、一度潰した方が良いんだ。こんな世界より、ライドンの作る世界の方が、よっぽど良い!!》
「それこそ却下よ」

黙って聞いていたシホが、たまらず口を挟む。

「隊長は、この世界を守ろうとしているのよ? それを壊すですって……?!」

言い様、彼女は。ほぼ無理矢理反撃に転じた。


「隊長には向かう輩は、たとえ神でも容赦しない!!」


あきらかに、シホの操るMSの動きとキレが変わった。長い間防戦に回っていたおかげで、アネハの動きは読めている。
隙を突き、両腕にサーベルを持たせ、その二つの刃でレジェンド改の腕を捕らえる。


《――っ?!》


一秒かからず切り落とされる、改式の腕。シホの攻撃はそれに留まらず、もう片方の腕、そして両足、頭部を破壊。そのまま中心部に刃を立て――手を止めた。
切っ先は、コアを貫かず。


《……んで、殺さない……?》
「バカにしないで」

シホは言い切る。



「軍人の仕事は、人を殺すことじゃない。弱気を助け、秩序を守る者。戦闘不能者相手に手を出すほど、愚かじゃないのよ!!」



彼女の言葉は、傍で戦う仲間から、戦う迷いを取り払っていった。






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