紅乙女


「メイリンは……来ないか」
「さすがに」

次に出てきたのは妹の名。
ルナマリアは、シンの部屋の片付けにメイリンも誘ったが、彼女は首を縦に振らなかった。
軍に関わる所には行きたくない――と。

「……本当に、ザフトに戻ったんですか?」

怪訝な顔で、ルナマリアは聞いた。
昨日一晩考えたが、やはり納得できない。
彼がザフトに戻れる理由、そして自分が復隊を求められる理由――

「戻った、というか、戻されたって感じだな……」

アスランは、ただただ苦笑しながら、彼女の疑問に答えた。

「まだ完全に自由の身じゃないんだ。ザフトに戻るなら、仮でも釈放する、って言われてね」
「何ですか、それ」

復隊するなら釈放??
意味が分からない。

「で、与えられた仕事が、有能な人材を発掘するっていうもので、君に声をかけたんだ」
「……一体どうなってるんですか、ザフトは……」

それが素直な感想だった。
わざわざ軍事法廷にかけられている最中の人間を呼び戻した上、重要な仕事を任せる。

――信じられない。

「それだけボロボロだってことなんだよ、今のザフトは。君にだって分かるだろう? 崩れた組織を立て直すことの難しさは。だからこそ、一人でも多くの即戦力が欲しいんだ」

ザフト内部が大変な状況であるのは知っている。メイリンの軍事審判がわずか二週間で終わったのも、組織の弱体化が原因の一つでもあるのだから。
彼女の問題については、それとは別に、もう一つ大きな理由があるのだが――

「……そんなに必要な人材ですか? 私は」

虚ろに問う。
彼女とは逆に、アスランは力強く答えた。

「ああ」
「何の力も無いのに?」
「赤を着てたじゃないか」
「赤を着てたのに――結局、何の力も持ってなかったんです」


だから辞めた。
力の無い自分を思い知らされて……戦うことに疲れて、辞めてしまった。


戻るわけには……いかない。


「私がここに来たのは、シン達の部屋の片付けのためです。アスランの誘いに乗るためじゃありません」

彼女ははっきりと言い切った。
戻るつもりは無い。
ザフトに未練など――あるはずもない。
あんな血生臭い所になど、もう二度と……軍になど絶対、戻りたくない……と思っているのに。


心のどこかに引っかかる、後ろ髪惹かれる思いは何だろう。


〈……ちがう違う〉


アスランに誘われてるから、そんな思いが過ぎるんだ――そう、頭をかぶり振り、ルナマリアは目を、寮へとやった。すると不思議なことに、目的の部屋の窓が開けられている。
言葉も無く見ていると、アスランもまた彼女の視線を追い、

「ああ。ヨウランとヴィーノだ。待ちきれなくて、先にはじめると言っていたから」
「……たった10分遅れたくらいで……」

腹立たしさと懐かしさから、彼女はため息をもらした。
軍に残った二人と、除隊したルナマリア。彼女が彼らと会うのは、実に三ヶ月ぶりのこととなる。

確かに、約束の時間に遅れた自分に非があるのは分かるが、待ち合わせ時間は、これよりわずか10分前でしかないのだ。10分くらい待つ度量は無いのか、と一人心地ってしまう。

「……答えは急がないから。じっくり考えてくれ」
「分かりました」

絶対に戻らない――そんな決意を込めながら、ルナマリアは返答した。





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