君のための正義







それはまるで、戦場に華を添えるかのごとく鳴り響いていた。
死神の誘いか、あるいは導きか。
宇宙に流れる歌姫の嘆きを耳に受けながら、戦士達は戦っていた。

そんな中、アスランはレベッカに乗り込み、戦場を駆け巡る。
探すのは――ローズ・ザク・エルザ。ルナマリアだ。

「……いない……あいつ、どこで戦ってるんだ……?」

通信回線を開こうにも、遠く離れているのか、繋がってくれない。
レーダーにも映らない。
エルザだけを探したいので、MSの探索周波数を狭めているのだが……もしかしたら、狭めすぎて探査不能となっているのかもしれない。そんな可能性も視野に入れ、波形領域を少し広め――



《誰だあああああっ! 俺の機体に乗ってるのはああッ!!》



同時に轟く轟音に、アスランは耳を塞いだ。
この轟音は、必ず来ると悟っていた。
叫ぶだろう、彼なら。自分が乗る気満々だったMSに、他の人間に乗り込まれては。

「……イザーク、少し声を落としてくれ」
《アスラン?! っ……貴様、また俺の機体を――!》
「これはお前のじゃなくて、シホ・ハーネンフースの機体じゃないか」
《うるさい! 部下の機体は俺の機体だ!!》
「あのなあ……」

どこかの母艦から響き渡ってくるイザークの俺様発言に、アスランはがっくり肩を落とした。

「……とにかく、俺がこれに乗ってる理由は、ミネルバの艦長から聞いてるだろう?」
《そんなもの知らん! 俺はレベッカが戦場に出てるから、文句を言ってるだけだ!!》


そのイザークの後ろでは、慌てふためくCIC担当らしき軍人と、メインモニタに映るミネルバの艦長の姿が見える。

レベッカにはイザークが乗る予定であると聞いたが、アスランは『議長(代理)命令』の下、MSに乗り込んだ。その際、搭乗予定のイザークに話を通すと言ったアスランを制し、艦長が自分から「ジュール隊長にはこちらから連絡を入れます」と宣言してくれたのだが……どうやら間に合わなかったらしい。

「話は後ろの人間から聞いてくれ」
《あ、まて! まだ話は――》



――プツンッ。
叫び声が切れる前に、アスランは通信を切った。後が怖いが、そんなこと言っていられない。
エルザを、ルナマリアを探さなくては。
それに、感知するMS周波数を上げたおかげで見つけた、大きな熱源。
機影をモニタに映したアスランは、自分でも高揚していくのが分かった。
奪われたアスランの元・愛機がある。



――ジャスティス――



ゆらりとレベッカが傾く。彼の意識は、ほんの十数秒でたどり着ける戦地で苛烈な戦闘を繰り広げる愛機、そして応戦するザフト機と「彼」の機体に向かっていく。


「本当にいるとはな……」


時計塔で、ラクスは言った。キラがいる、と。
疑う気は無かった。でもあれは、信じるとか信じないとかいうレベルの話ではなく、精神論にも近いものだと感じていた。
しかし、目の前でジャスティスと戦うのは、間違いなく「フリーダム」。
キラだ。



《さすがフリーダム! こりゃ確かに、倒せば俺が、宇宙一だぜ!》
《そんなことはどうでも良い! アスランの機体……これ以上、汚させたりしない!!》



レベッカの通信システムが、二機間の会話を捉えた。
ジャスティスを犯罪に使われ、怒るキラ……その気持ちが、アスランは嬉しかった。
喜び、戦火に舞い降りた。





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