君のための正義







「ご苦労だったな。追って今後の指示を出すから、下手に動かず、ゆっくり静養していてくれ」

電話にそう話しかけ、ライドンは穏やかな表情をレイに与えた。

「というわけだ。我々の方が、一枚上手だったみたいだぞ?」
「…………」

レイは、反撃の糸口を失い、再び身動きの取れない状態になった。
彼が今一番欲しているのは『資金源』。それを手にしたのだから。

「それにしても……戦場は、大いに盛り上がっているようだな」

優越感に浸るライドンは、そのドーム状の部屋に、大きなスクリーンを引き下ろしていた。
紺色の闇に、たくさんの光。それは戦火の証……

「悲しいな。人はどうしてこんなにも争いが好きなのか……どう思う? レイ」
「そんなこと、知らない」
「少しは考えて答えてくれよ。まあ、お前はデュランダル以外とちゃんと向き合ったりしないだろうが……特別に答えをやろう。奴の言ってた『デスティニープラン』とやらがあれば、簡単に解決する。
お前が敬愛してならないデュランダルの夢を、お前に見せてやる。

だからレイ、こちらに来い」


ライドンが手を伸ばす。
その前に――シンが立ちはだかった。

「だめだ。絶対、渡さない」
「……困った教え子だな……シン。お前はいつまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ?」
「あんたの好きにさせてたまるか!!」
「――ほう?」

ライドンの顔を、冷笑が支配する。

「俺はただ、使えるものを使い、自分の望みを果そうとしているだけだ。それのどこがいけない?」
「間違いだらけだ!!」
「なら聞くが、間違いとはどこで誰が決めるんだ? シンにとって間違いでも、俺にとって間違いじゃない事柄がある場合は、一体どうすれば良いのかな?」
「そんなの、ただの言いがかりじゃないか!!」
「では質問を変えよう」

間髪入れず、ライドンは続ける。

「お前はベルリンで、デストロイを守ろうとした。それは仕方の無いことだった。
では、それを『仕方ない』ことで終わらせられない苦しみは、どうしたら良いと思う?」

瞳は氷のように冷たく。まるで遠くを見るように。

「裏の筋から、フリーダムがデストロイを止めようとした、という話を聞いたよ。そんなフリーダムから、一機のMSがデストロイを守ろうとし、応戦したと。おかげで何十人と言う人間が、たった一機の放った弾で死んでいった。
――俺の家族も巻き込まれた」


瞬間、シンの瞳が見開かれる。
信じがたい現実が、そこにはあった。

「妻はベルリン出身でね。あの日は息子を連れ、里帰りをしていた。デュランダルも知っていた」

ライドンの拳が、強く握られる。

「奴は知っていた。デストロイがベルリンへ向かう可能性があることも知っていながら、妻と息子の見送りにまでやって来た。こちらには一切の情報も与えず、俺の家族を笑顔で送り出した」


もう誰も信じない。
誰も信じられない。
家族ぐるみの付き合いをするほど深い親交がありながら、あんなにも簡単に、自分を裏切ったギルバート・デュランダル。

彼にとっては、レイや他の協力者を釣るための『デスティニープラン』遂行には、デュランダルへの復讐という側面も併せ持たれている。
ギルバート・デュランダルが成しえなかった悲願を、自分が実行する。
あの男に出来なかったことを、この手で――

「さて、シン。もう一度訊くぞ? お前にとっては正しいことでも、他から見れば間違いとしか思えないこと。それは『ただの言いがかり』で片付けられることか?」


ライドンは笑っていた。
憎しみに顔をゆがめ――笑っていた。







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