贖罪の唄






「……私はまだ納得してないぞ、クルゾフ」

アスランが去り、塔の内部もまたざわつきが襲い――そんな中、カルネアだけは、クルゾフに強い視線を投げかけた。

「さっきは悪かった。少々きついことを言って……」
「そんなことはどうでも良い」

彼が行おうとした謝罪は、彼女にとっては場違いなものだったらしい。あっさり切り捨てると、カルネアはその目を、不思議そうなものに変えた。

「何故貴様は、アスラン・ザラを解放した?」

ここに来て、彼女の一番の疑惑がこれだった。
どうも分からない。「議長代理」の力を使い、拘留中のアスラン・ザラを釈放させたクルゾフ。その目的は何なのか。
彼を釈放するメリットが一体どこにあったのか、掴む事が出来ない。
確かに、ザフトをまとめるのに尽力はつくしている。しかしそれは、無理矢理アスランにさせなくてもよいことではないのか?
もし「彼が適任だった」と言われてたとしても、「彼以外にも適任者がいたのではないか?」という思いが残る。
一体どんな言い訳が出てくるのかと、彼女は耳を傾け――



「私は娘が可愛いんだよ」



飛び出した言葉に、カルネアは目を丸くした。


「うちの娘は、本当に可愛くてなあ……」
「く、クルゾフ?」
「いや本当に、あんなに出来た娘はそうそういないと思うんだよ」
「貴様の娘自慢など訊いていない!!」
「まあ、そう言うな、カルネア」

怒り出すカルネアを、クルゾフは柔らかくなだめる。

「実はうちの娘には、婚約者がいたんだよ」
「ふん。まさか、それがアスラン・ザラとか言い出すんじゃないだろうな」

カルネアは鼻で笑った。
アスラン・ザラの婚約者は、ラクス・クライン。
少しでもラクスを知っている人間なら、なんてことも無い常識問題だ。
もちろんクルゾフも、そこは笑い飛ばす。

「まさか。そんな冗談話をする気はないさ。ただ、その『婚約者』が彼とかなり親交の厚い人間なんだよ」
「……どんな」
「同期なんだよ、アスランと。一時、彼の部下になったこともあってな」
「……………………」


ゆっくりと。
ゆっくりと、カルネアの身体が震えていく。
顔がわなわなと、引きつっていく。


「……まさか……まさか、それが理由、か?」
「ああ」

その瞬間、彼女の頭に血が上った。

「貴様ッ……親バカにもほどがあるぞ!! 公私混同も良いところじゃないか!!」
「まあ、そうなんだがなあ……」
「馬鹿げている。馬鹿げて……あーっ! 貴様、そんな男だったのか!!」

彼女が怒るのも無理は無い。
これが、不審を感じながらも、どこかで信用していた男の言動なのだから。

「でも、私も『議長代理』の前に、一人の親なんだよ。娘の願いを叶えたいと思うのは、当然のことだろう?」
「だからって職権を乱用するな!! 一人の親であっても、貴様は『議長代理』なんだ! そんなに彼を釈放させたかったら、その婚約者に嘆願書でも書かせろ!!」
「それが出来たらなあ……」

ふと、クルゾフは目を細めた。
おかげでカルネアは、少しだけ毒気を抜かれてしまう。

「……なぜ、行動させない? お前の後ろ盾があれば、その『婚約者』も怖くないだろ」
「もう、この世にはいないんだよ」





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