贖罪の唄







「忘れたのか? 彼女は、君のためにも歌うと言っていたんだ。忘れたわけではあるまい?」
「そりゃ……」
「彼女は君に、自由になって欲しいんだよ。自由に空を飛び、可能性を最大限に引き出して欲しい……そう、願っている」


分かる。それは分かる。
けど本当に、良いのだろうか。
この場を離れて。


なんせアスランは、まだ、クルゾフを信用しきれていない。
それを察知すると、彼は少し、話題を変えた。

「……君が私を疑うのも、仕方ないとは思う」

苦笑交じりの言葉。
アスランは窺うように、クルゾフを見た。

「どうも私は、不器用な人間らしくてな。やりたいことは見えているんだが、これがなかなか上手く行かない。デュッセルカンパニーの一件も、三ヶ月前には分かっていたことなんだよ」
「三ヶ月も?!」

さすがにアスランは声を上げた。
それはつまり、三ヶ月もの間、彼はとても重要なことをたくさん掴んでいながら、そのほとんど全てをひた隠しにしてきた、ということで……
一瞬、不信感が強まる。
けどこれは、嘘をついていないという証でもある。
彼は今、真実を話そうとしている。

「メサイアから『機密』が奪われた時、把握し切れてないものが無いか、私はギルバート・デュランダルが議会に作った私設室を調べた。そこで、Lシステムのことも、彼がどんな連中と手を組んでいたかも」


言いながら、辺りに目を配った。
クルゾフと目を合わせないようにする人間が、何人か見える。
どうやら彼らも――事に関わりある人間らしい。
アスランの心を解きほぐしながら、彼はこの場に残る『不逞の輩』の洗い出しも行おうとしていた。
不逞の輩。
その魂を、ロゴスに売った輩達を。


「出来るなら、全てを公にしてザフトを動かしたかったが、その規模を把握しきるまでに長い時間がかかってしまってね。全てを掴むまで、こっちの動向は他の評議員にももらしたくなかったんだ。もっと上手く、少しずつ情報を提示出来れば良かったんだが、こういうことはどうも苦手で……結果、君にも大きな不信感を与えてしまった。
すまない、アスラン」

最後にクルゾフは、真摯な思いで謝った。
アスランは、そんなクルゾフをじっと見ている。
彼もまた、平和を求める人間の一人。
目指すビジョンは、自分達と同じものだと……その思いが伝わって。


「……あと十分で、Cドックから、戦艦が一隻、戦場に出る」


それは、提示。
行動の提示。

「これを」

クルゾフは、鞄から一冊のメモを取り出し、アスランに渡した。

「ローズシリーズの、本来の使い方だ」
「?!」

驚き、アスランはバラバラとメモをめくる。
色々な機能の詳細が、そこには記されていた。

「これが、ローズシリーズを強行させた理由だ。だからライドンはローズシリーズを作り、ザフトに機能の『実験』させた」
「それを……逆手に取る、という訳ですね」

メモを懐にしまうと、アスランは一礼し、そして走り出した。
外に。
ドックに。
早く、宇宙に出るために――




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