贖罪の唄







一方、カンパニー地下のモニタからラクスを眺めるミリアリアの涙は、止まる様子を見せなかった。

「なんだろ……すごく、悲しい……」
「そうか?」
「別れの歌、だからかな……」
「けど、それだけじゃねーじゃん」

受け取り方は三者三様。ミリアリアとは全く違う印象を、ディアッカはもっている。

「俺達のこと言ってる、これ」
「は?! これの、どこが?!」

あまりの発言に、ミリアリアから涙が消える。
ディアッカは構わず続けた。

「だって……ナチュラルとコーディネーターが出会って、恋をして、けど別れることになって……でもこれは、永遠の別れじゃない。今は離れ離れになるけど、いつか二人は一緒に暮らせるようになる。
――ほら、俺らのことじゃん」
「別に私、あんたとヨリ戻す気無いから!!」
「まぁた照れちゃって。お前ほんと、俺に対しては、愛情表現苦手だよな〜」
「ううう五月蝿いッ!! あ、愛情表現なんて、そんな、あんたなんかに――」
「はいはい」

ククッ、と笑いながら、ディアッカはミリアリアを引き寄せ、抱きしめた。

「うわ、ちょっと、放してよ!!」

そんな抵抗もお構い無しに、ディアッカはミリアリアのぬくもりに浸りながら、それまでの空気を拭い去るように、寂しく口を動かす。

「……これ、本命はキラだな」
「キラ……に?」
「……ラクス嬢、腹括ったんじゃないか? プラントに残るって」







それは、キラも感じ取っていた。
宇宙に流れる歌姫の祈り。
ディアッカの「外部干渉」で全ての通信機能は制限を受け、どんなに止めようと画策しても、彼女の歌声を遮断することが出来ない状況下で、キラはフリーダムを駆りながら、瞳に涙を溜めていた。
伝わる、ラクスの想い。

「決めたんだね、ラクス……」

彼女は、一度「こう」と決めたら、決して引くことが無い。
おっとりした性格の割りに、周りを驚かせるほどの頑固者だ。
その彼女が、決意した。


「泣かないで、ラクス」


フリーダムに、敵意をむき出しにしたジャスティスが迫る。
他のザフト機と連携しながらジャスティスと戦うキラは、一人、ラクスに訴えた。

届く想い。
響く唄。
全てのプラントの……コーディネータに対しての願いの中に、しっかりと詰め込まれた自分への気持ち。


「大丈夫。僕たちは、大丈夫」


会いに行こう。この戦いが終わったら――いや、プラントに降りたら、真っ先に会いに行こう。
会って、ラクスを安心させよう。


レバーをかける手に力を込め、キラは戦火に身を落とした。





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