贖罪の唄




これは『審議』。
彼女に、歌を歌わせる。
彼女に、なぜプラントを裏切ったのか主張する場所を与えてやり、それで彼女の罪を、民衆に裁かせる――それが目的だった。

彼女の存在は大きい。評議会の審査だけで刑を科せば、暴動だって起きかねない。この一言が、議会を無理矢理丸め込ませた。
その結果がこれだ。
人々はラクス・クラインに熱狂し、その声に涙し、彼女の支持を圧倒的なものに変えている。



「……理不尽な話だと思わないか?」
「何が」
「彼女は『種』をまいた。二年前、平和の『種』をまいたのに、その後、水を与えずに身を隠した」
「意味が分からん」
「シーゲル・クラインは、『ラクス・クライン』という『種』をまき、『平和の先導者』として育て上げた」


シーゲル・クライン――
その名の登場に、カルネアはギョッとする。
今も、彼を支持する人間は多い。

「対して、ラクス・クラインは『平和』を願う『種』をまきながら、その後のフォローを怠った。自ら『平和』を願う『心』を誘発しながら、全てを放り出し、オーブに逃げた」
「それは違う! 彼女はオーブに亡命したんだ。プラントに戻れる状況になかったから、仕方なく……」
「それはただの言い訳だ」

ぴしゃりと言い切るクルゾフ。

「彼女も、民衆も、我々も、一度思い知っておかなくてはならなかった。
彼女の必要性を。
彼女の存在の大きさを。
それが『ラクス・クライン』の名で戦争中止を呼びかけ、『ラクス・クライン』の名に心を揺り動かされ、『ラクス・クライン』の名を利用し続けて来た我々の義務であり、そのための『審議』だ。
はっきり言って、彼女ほど指導者に相応しい者はいない。これ以上、彼女に責任を放棄されては困るんだよ」


最初から、彼女を裁く気など無い
彼女の必要性を、皆が自覚するための『審議』。
彼女を『議長』に推薦するための――……

その意図を知り、力を失っていくカルネアの手を外すと、クルゾフは乱れた首元を正し、辺りに目を配る。


いつの間にか、評議員の姿が何人か見えなくなっている。



〈……調査通り……いや、まだ確定、というわけでもないか……〉



大体は予定通り。
だが、細かい所で上手く行かない。


「……塵一つ残したくないんだがな……」


誰にも聞かれないよう小さく呻き、大きなため息をついて。
そして彼は、アスランと向き合う。

「君はここで、何をしている?」
「……え、議長代理?」
「何をしているか、と訊いているんだ」

突然話を振られ、アスランは対応出来なかった。
クルゾフは、なおも続ける。

「今の彼女に、君は必要ない」
「何を、言って――」
「彼女は自分で、自分の身を守った」

確かにその通り。ラクスは「歌」で、暗殺意志を奪い取った。
今もまた、平和の願いを広げている。

「君はここで、ただ、彼女の歌を聴くだけの『観客』か?」

アスランは、反論の方法を失った。
言われた通りだ。彼はここに来て、まだ、何もしていないのだ。
これでは、観客と言われても仕方ない。

「君には、出来ることがあるだろう? 君には、彼女には出来ないことが出来るのに、その力と自由があるのに、何故こんな所で時間を持て余している?」
「持て余してなんか……」
「君には伝わらなかったか? 彼女の思いが」
「……?」

アスランは眉間にしわを寄せた。


ラクスの……思い?


「さっきの歌、あれはプラントの住民に、地球との――ナチュラルとの和平を訴えかけるだけのものではない。あれは、遠く離れた場所に住む『大切な人』を思う歌だ」





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