贖罪の唄







歌が終わると、広場に大きな拍手が広がった。
広場だけではない、あらゆるところから、拍手が、涙が、彼女を応援する声が響く。


「……これが、ラクス・クラインなんだ」


そんな姿を目におさめながら、ディアッカは呟いた。
隣のモニタは、彼女の暗殺を企む実行部隊が映っている。何人もの実行犯たちは、彼女の言葉と歌を聞き――まるで脱力するかのように武器を落とし――そこを、クルゾフが配置させたと思われる特殊部隊が確保する、という姿がいくつも見て取れた。




――撃たせない――




そう宣言したラクスは、本当に引き金を引かせなかったのである。


「どうだ? ミリアリア。久々にラクス嬢の歌、聴いて――」

そこまで言って、ディアッカは言葉を呑んだ。
ミリアリアは……泣いていた。

「どうした? おい!」
「分かんない……」

涙をぬぐい、ミリアリアは囁く。

「けど、なんか……すごく……止まんない……」




それは、ミリアリアだけの姿ではない。
テレビ越しに、ラジオ越しに、時計塔の前で、彼女の歌を聴き入り、その中には涙を流す人間もいる。



その様子を目に焼き付けながら、ラクスは歌った。
ひたすら歌った。
一曲一曲、既存の歌から即興の歌から……彼女は「歌」で祈りを捧げる。


「……そうか、分かった。周りの警戒は怠るな」


クルゾフの元に連絡が入ったのは、三曲目が始まった時だった。
彼はある種、尊敬の眼差しで、ラクスを見て、

「大した歌姫だ、彼女は」
「は?」
「実行部隊の戦意を喪失させたよ、彼女」
「え――……」

驚き、アスランもラクスに目を戻す。
そこには歌い続ける歌姫の後ろ姿。


「これでみんな分かったはずだ。このプラントに、今、一番必要な人間が誰か」
「……どういうことだ、クルゾフ!」

掴みかかるのはカルネア。彼女は怒っている。この『審議』にも怒っているし、彼の言い分にも怒っている。

「貴様、いい加減にしろ! これじゃまるで、議長選挙じゃないか!」
「議長……選挙?!」


カルネアの言葉に、アスランも――周りの人間も、目を丸くした。


「これはラクス・クラインを裁くための『審議』だろう?! 彼女を民衆の前に晒し、彼女に民衆の怒りをぶつけさせ、彼女の罪の大きさを民衆に提示させる――そう言ったのは、お前じゃないか!!」
「ああ。その結果がこれだ」
「ふざけるな!!」

胸倉をねじり上げ、カルネアは怒りを露にする。

「こうなっては、彼女は身を隠せない! 彼女が表に出てこないと……いや、彼女以外の人間が君臨し続けたら、民衆が納得しない!!」

そう。こうなっては、ラクスはもう、表舞台から降りることなど出来ない。
民衆はみな、ラクスを求めている。




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