贖罪の唄








誰もが最初は、空耳だと思った。
久しく聞かない歌声が、小さく小さく聞こえてきて。


「……これ……」


メイリンもまた、その一人だった。彼女の場合、先ほど――違う人間の奏でたものであるが、同じ曲を耳にしている。
だから今回も、別の誰かが口ずさんだと思ったのだが。

「……違う」

目当ての店に入ろうとして、その歩みを止める。
これは幻聴ではない。
別人の声でもない。ラクスの歌声だ。
ラクスの歌が、街中に響き渡っている。


でも、どこから?
不思議に思い、メイリンは辺りを見回す。
すると、周りにも同じ光景が広がっていた。
絶え間なく行き交う人の波が動きを止め、必死に「歌声の元」を探している。



「時計塔だ!」



誰かが叫ぶ。同時に、その場に居た人々は、一斉に、数百メートル先に見える時計塔へ、塔のそびえる中央広場と向かっていった。
メイリンも、導かれるように、時計塔に足を進める。

その間も、絶え間なく響く歌声。
どんどん大きくなっていく歌声。
進む最中、たくさんの街頭モニタを目にし、その全てには、陣羽織を纏うラクスの姿が映っていた。
今、プラントを走る電波には、ラクスの歌声が乗っている。
この一帯だけではなく、プラントの隅々に、ラクスの歌が、ラクスの姿が届けられている。


歌う姿が。
歌う声が。


「……ラクス、様……」


中央広場にたどり着いたメイリンの目には、時計塔のテラスの上で優しく歌を奏でるラクスが映った。
そして彼女が目にする映像と同じものが、プラントの全ての住人に、そして宇宙へと届けられていた。






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