贖罪の唄



「とても物騒な言葉が聞こえましたけど。……聞き間違いではないようですね」
「ラクッ……」

悲しげに微笑むラクスを見て、違う――と、完全否定することが出来なかった。


「私、狙われていますのね」


ひどく落ち着いた物言いを聞く限り、前々から予期していたようにも思える。
自分の命が狙われている、と。
でなければ、いくらラクスとは言え、こうも淡々と状況を飲み込むことなど、無理ではないだろうか。
彼女は、気付いていた。
それなのに、この場に来る事を選んだ。

「なぜ……」

アスランは問う。

「なぜ命が狙われていると分かっていながら、こんな茶番に付き合おうと言うんだ……」
「茶番ではありません、アスラン。可能性です」

逆に、ラクスは言い切る。

「これは、私が許される『可能性』です」
「そして、プラントの行く末を探る『可能性』だ」

二人の間で、クルゾフも補足的に続けた。

「全く……ラクス・クライン。君は本当に、苛め甲斐が無いな」
「苛めようとされていたのですか? 私は、貴方なりの激励だと思っておりました。スタリーン様」
「激励……?」

取り残されるアスランは、訳も分からず顔をしかめる。

「とにかく、審議まで時間が無い。アスラン、電話の主と話が――」
「正気ですか、議長代理!!」

我知らず、アスランは声を荒げる。

「狙われているんですよ?! ラクスは!!」
「分かっている。だから何時でも特殊部隊を動かせるよう、近場に配置してある」
「そんな……それでも!!」
「今の彼女なら、乗り切るさ。平和の歌姫『ラクス・クライン』なら、乗り切ってもらわなくては困る」

聞く耳を持たないクルゾフ。
そして、聞こうとしないラクス。
アスランの言葉は、二人を止めることが出来ない。


「大丈夫です、アスラン。撃たせません」


そっと、ラクスはアスランの手を握った。
自分を心配してくれるアスランを、励ますように。


「私、今、出来るだけのことをします。ですからアスランも、今、貴方に出来ることをやって下さい」
「出来る、こと?」
「貴方には、やるべきことがあるはずです」


勇気付けるように。
送り出すように。


「お願いです。宇宙へ出てください。そして……キラを助けてください」
「キラを?」
「キラを感じます。キラが、宇宙にいます」

ゆっくり手が離れていく。
すり抜けて行く彼女の手は、アスランの携帯を一緒に引き抜いていた。

「え? あ、ラクス――」

それは一体どういうことか。尋ねようにも、彼女は携帯でディアッカと話しを始めてしまい、問うことが出来なくなって。



「君には出来ることがある」



そんな彼に導くよう呟くは、クルゾフ。

「彼女は大丈夫だ。暗殺疑惑だって、一週間前には把握している」
「ならなぜ、分かった時点で教えてくれないんですか! こちらには、一切の情報も与えず……」
「どこで誰が聞いてるか、分からないからな」

自嘲しながら、クルゾフはラクスから携帯を受け取り、ディアッカと直接話を始めた。
何を話しているのかも気になったが、アスランは、ラクスから注意をそらすことが出来ない。
決意の固いラクスの姿が、緊張感でアスランを縛る。
そんなアスランに、彼女は微笑んで。


そして、足をテラスへと進めた。




*前次#
戻る0

- 104 /189-