自由の翼






「さて、私はそろそろ退散するかな」

舞台は、打って変わって時計塔。審議の準備が整う中、アーザンはその場を立ち去ろうとしていた。

「ではカルネア女史。クルゾフの見張り、頼みましたよ」
「頼まれるいわれは無い」

すれ違い様の耳打ちを、カルネアは受けなかった。
さすがに、アーザンはうろたえる。

「……私と手を組む、のでは?」
「どこに行くとも言わない男の頼みを、なぜ私がきかなくてはならない?」
「嫌ですね。ただの野暮用ですよ、野暮用」
「それは今回の件と、関係あるのか?」
「言ってる意味が分かりませんが」
「貴様はかませ犬か、と訊いているんだ」


笑みが消える。
それまで余裕を称えていたアーザンの顔に、初めて緊張感が灯った。


「もっと早く気付くべきだった。貴様がクルゾフをファーストネームで呼んだ時から」


議長代理の本名は「クルゾフ・スタリーン」という。
彼の呼ぶ[クルゾフ]とは、苗字ではなく、名前なのだ。

アーザンは、彼を名前で呼べる人間。
表向きには全く親しくなければ繋がりもなさそうだが――この二人の間には、カルネアも知らない何かがある。


「お前達は一体、何を考えている?」
「難しいことは何も。願うは一つ、プラントの繁栄だけです」


参ったな、と笑いながら、アーザンは小声で言った。

「隠し事は認めます。けど今は、時期じゃない。聞かれてはまずい人間もたくさんいる」
「何……?」
「審議が終われば、全て分かります。ですからもう少し、力を貸してください」
「…………と、言われても……」

呻き、カルネアが顔を伏せた時、





「何だと?!」





室内に、アスランの声が響き渡った。
彼はハッと顔を上げる。目に入ってくるのは、大声に驚いた面々の姿。アスランは小さく頭を下げると、それ以上大きな声は出さなかった。
どうやら電話で話しているらしい。カルネアは深く考えず、彼の部署で何か問題が発生したのだろう、くらいにしか思わなかった。


彼の電話にもたらされた情報が、ラクスの命が狙われている――なんてものだとは、頭の端にすら思い浮かべられなかった。





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