歯車の噛み合う時


「待ってよ、シン! なんで逃げるの?!」

追いかけながら、メイリンは叫び続けた。

「みんな心配してるんだよ?! どっか行くなら、ちゃんと行き先教えてってよ!!」

しかし、答は返ってこない。
声だけが反響する。

「シン!!」


見えなくなった姿。
聞こえない足音。
届かない想い。


「シンッ!!」

声が枯れるほど叫んでも、彼は現れない。
メイリンは、走る先を変えた。
このまま走ったところで、彼をつかまえることなど出来ないだろう。
なら――せめて一秒でも早く、伝えなければ。

「お姉ちゃん!!」

彼女が向かった先は、自分の家。勢いよく姉の部屋を開けると、中から抗議の声が返ってきた。

「メイリン。人の部屋に入る時は、ノックくらいしなさいよ」
「でも――」

彼女は姉の姿を見て、言葉を失う。
ルナマリアが身に纏うのは、封印していたはずの『赤』い軍服……

「それ……」
「言ったでしょ? 明後日から復隊だって」

メイリンが軍法会議にかけられるのをきっかけに、ルナマリアはザフトを除隊した。別に、妹の件が理由、という訳ではない。それなら嫌疑をかけられた時点で軍を出ている。
ただ……きっかけではあったが。
彼女も疲れたのだ、軍人であることに。

だが先日、復隊を強く勧められ……再び『赤』を着る決意をした。

「で? 何を慌ててたの?」
「そう――シン!!」

びくっ。
その名にルナマリアの肩が震える。

「シンが、いたの!!」
「……え?」

瞬間、彼女の思考は真っ白になった。




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