自由の翼






「エルザって……あのエルザ?」
「だろうねえ。スケール大きいなあ、あのおっさん」

変わって、デュッセルカンパニー地下倉庫内部。ミリアリアの問いかけに返すディアッカは、通信機を手にしながら、大して驚きもせず呻いた。

「ちょっと! 何よ、そのやる気の無さ――」

大声で文句を言い出した途端、その口をディアッカの手で塞がれる。そのままの姿で、ディアッカは小さな機械を耳に当て、話し出した。

「ああ、俺」

まずは一言小さく紡ぎ――





《貴様、こまめに連絡入れろと言ってるだろうが!!》





相手方の大声に、ディアッカは思わず、機械を耳から離す。

「悪かったって。こっちも立て込んでてよ……お前、どこにいんの?」
《貴様と同じ地下倉庫だ。これから宇宙に出る!》
「って、こっからドッグ戻って宇宙?!」
《そんな余裕あるか! ここのドッグとシャトルなりを拝借して上るに決まってるだろ! 後はレベッカが着き次第、乗り込む!》
「シホの機体に?」
《Lシステムを止めるためにはレベッカは必須だ。今のシホに、そんな真似させられん》

後半は、悲痛な想いでいっぱいだった。
無理をして合流したシホ。彼女にこれ以上、無茶をしてほしくない――そんなイザークの想いが、節々に溢れている。

《貴様こそ、どこで何をしている? シホは見つかったのか?!》
「いや、まだ。けど、ライドンのおっさんは見つけたぜ」
《何?! なら、先にそっちへ――》
「いや、お前が宇宙に出た方が早い。あのおっさん、今、エルザに居るから」

ディアッカの眼差しが、ライドンを映すモニタに向く。すると、液晶画面の奥に居るライドンは、不敵の笑みを浮かべて立ち上がった。
こちらを見て。
目線が、ディアッカとミリアリアを貫く。画面越しなのに目が合い、ミリアリアの背筋に、冷たい汗が流れた。





一方、見られている側のライドンは、意識的にカメラを見ていた。至る所に設置された監視カメラは、ディアッカ達のいる部屋にも仕掛けられている。内部にまでこんなに監視カメラをつける理由はただ一つ、不穏分子を見逃さないため。
そのためライドンは、カメラが捉える映像をいつでも見れる様にと、自身のパソコンからも監視出来る様にしていた。
ゆえに、ディアッカ達が見ることの出来る映像と同じものを、ライドンも見ることが出来る。

「ま、妥当な所かな?」

彼のパソコンに映るのは、モニタを凝視するディアッカとミリアリア。彼は自分の置かれている立場を、よく分かっている。

「……それにしても」

画面が切り替わり、冷たい世界がモニタに現れた。
灰色の鉄壁に囲まれた大きなドーム状の空間に、一人佇むレイの姿。



「俺を裏切るか、レイ」



呟き、ライドンは悠然と、部屋を出て行く。
そこはプラントのニ連星・紅乙女の片翼「エルザ」の内部に構えた、ライドン用に用意された部屋だった。





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