歯車の噛み合う時


呼吸をおいて、二人は再び目を合わせた。
少年の瞳は、うつろなものでも、真っ赤に染まったものでもなく、光を持った「命ある瞳」となっていた。
これが彼の、本来の目なのだろう。

「ありがとう」
「え?」

ミリアリアの言葉に、少年は驚いた。彼の聞き間違い出なければ、彼女は今、「ありがとう」と言った。
心に動揺が走る。
久しくきかなかった言葉を、彼女はもう一度、囁いた。

「守ってくれて、ありがとう」
「――――」

感情があふれ出す。


守る。
……守りたかった。
でも、今……俺は、この人を守った?


「私、ミリアリア。あなたの名前は?」

なおも笑顔を向けるミリアリアを前に、少年はどうして良いか分からなくなる。
名前を問われているらしい。なら、名乗り返すのが礼儀だろう。

「俺――」
「――シン??!」

声は、突然響いた。
あらぬ方向から、少女の声。

「――と、ミリアリアさん?!」
「メイリン!!」

それは偶然の産物だった。
近くのショップまで買い物に出ていたメイリンが、偶然、二人の前を通りかかったのである。
ここはプラントであり、メイリンはプラントに帰った。こうやって普通に歩いているところを見ると、彼女の軍規審判は終わったのだろう。

「久し――」

ミリアリアはメイリンへと手を振り――同時に『シン』と呼ばれた少年が走り出す。
瞳を悲しみに染め、メイリンとは真逆の方向へ。

「待って、シン! あ、ミリアリアさん、また今度、ゆっくりと!!」
「え? え……え?!」

すかさずメイリンはシンの後を追い、取り残されたミリアリアは、一人呆然と、二人の姿を見送った。





*前次#
戻る0

- 8 /189-