【明けの陽光】





ドキドキする。
顔が赤い。
ディアッカの言わんとしてることが分かって、それが嬉しくて、ドキドキして。


眠れない。
暗い中、眠れなくてベッドを出る。かと言って、取り立てて何かやる事もなく、彼女は夜の散歩をすることにした。
カメラを持ったのは無意識。向かった先がデッキだったのは、運命だったのかもしれない。

扉を開けて外の空気を吸うと、世界が違っていた。
澄み切った空気。
深淵の闇。
遠くの地平線に現れる、一閃の光――……それは夜明けの出現。
今まさに、夜の空を太陽が照らす瞬間。


気づくとミリアリアはシャッターを切っていた。いつかの夕暮れに良く似た、鮮やかな赤の光。
不意に伝うのは、涙。


その瞬間、ミリアリアは決断した。
漠然と描いていた『自分がやるべきこと』。カメラを使い、トールの分まで出来る、誰かがやらなくてはいけないこと。
なら――……





別れとは、意外とあっさりやってくることが多い。特に突然の別れというものは訪れやすく、今回の別れも、本当に突然のことになってしまった。

「唐突にもほどが無いか?」
「私だってびっくりしてるんだから……まさかこんな、急にだなんて」

AAの前で、ミリアリアにキラ、そしてサイは、トールとの別れを惜しんでいた。
今日は、別れの日。突然AAにカガリから、準備が整ったから来い――と呼び出しを受けたのだ。おかげでAAは出立準備を緊急に済ませ、今すぐにでも旅立たなくてはならない状況にある。
だからもう、お別れ。

「あんまり無茶するなよ?」
「それはこっちの台詞だって、トール」
「ちゃんと連絡よこせよ?」
「ララさんに心配かけるようなこと、しないようにね?」

ミリアリアが自然と口にした名前に、トールの後ろに寄り添っていたララは、ほんの少しだけ動揺を見せた。もしかしたら……罪悪感があるのかもしれない。
トールの横にいられる、罪悪感。

「……そろそろいかないと……怒られるかな」
「……じゃ、本当に、さよなら……だな」
「…………また、会いにくるよ」

出来ることなら、また。
――いや、必ず会いにくる。自分から動かなければ、どうすることも出来ないのだから。
惜しみながら。
この時間がずっと続けば良いのに、と思いながら。
涙をこらえ、大きく手を振り、ミリアリアはトールに別れを告げた。





「お前、何言ったんだよ」
「何って?」
「トールだよ、トール」
「うわ最低。見てたの?」
「目に入ったんだよ。最後に何か、耳打ちしてただろ」

二人の別れの儀式を、ディアッカは最初から見ていた。――いや、彼に言わせれば「見守っていた」の方が正しいかもしれない。
そんなディアッカの目に、最後の最後、ミリアリアが手を振って艦内に戻る直前、トールに何やら耳打ちをする姿が飛び込んできた。
された方は驚き、慌てて手を伸ばしてはみたものの、ミリアリアには届かない。続いて向けられた表情に、トールは何とも言えない苦笑いを浮かべていた。
あの時、ミリアリアは何を言ったのか。


「何て言ったんだ?」
「そんなに気になる?」
「当たり前だろ」
「仕方ないなあ……じゃ、一回しか言ってやんないからね?」
「おう」


ディアッカは緊張してミリアリアを見る。
片や彼女は、緊張感ゼロで言ってくれた。



「私、ジャーナリストになる」



高々に宣言するミリアリアの姿は輝いていて、けれどディアッカは言ってる意味を瞬間的に飲み込めなくて、目をまん丸に呆けてしまう。
そんなディアッカを気にせず、ミリアリアは、迷いなく先を続けた。



「戦場を写す、カメラマンになる」

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