「楽しそうですね」
「マルキオ様……! もう宜しいのですか?」
「ええ。大分片付きましたし」

サイがシホに絡まれる中、ホテルの方からマルキオが歩いて来た。
事件の最中、一人幽閉されていたマルキオは、今の今まで、警察の聞き取り調査に協力していたのだ。本当はカガリも同席する予定だったのだが……公務ではなく完全な休暇で来ている事、そして事件のショックが大きいことも手伝って、マルキオが全てを引き受けたのだ。

「片付いていないのは、親子喧嘩だけです」
『親子演歌?』

ディアッカとミリアリアの声が重なる。

「それって……」
「市長と息子・アルゾート氏の論戦です。こんな事件を引き起こしたのも、役人と市民の意思疎通がしっかり出来ていなかったからだ――という話になりまして。今、激しい意見の応酬が行われていますよ」
「……一応、彼、罪人……よね?」
「オーブ領でも、細かな法律は個々の領地で決められてますから。レテトニア島にはレテトニア島のやり方がある、ということです」

諭す様に、マルキオは言う。

「討論会が終われば、量刑の話になるでしょう。その時の市長の心中を思うと……」


――辛いものがある。
マルキオは、全てを口に出さなかった。
未遂とは言え、立派な反逆罪だ。そう簡単な判決が下るはずもない。


「……で、結局彼らは、どうしてマルキオ様をさらったりしたんですか?」

空気が重苦しくなる中、沈黙を破ったのはキラだった。
漠然と思ってたこと。
それもまた、マルキオは静かに答える。

「後見人がほしかったようです」
「導師を後ろ盾に、って考えたわけだ」
「自分達の正しさを知らしめるためでしょう。どこか、迷いも見えましたし」
「彼に、ですか?」
「ええ」

爽やかな夜風を身に受けながら、マルキオは続けた。

「正しいと思いながら、迷いというか、不安というか……綻びをすでに持っていました。きっと、仲間を犠牲にすることに、心苦しさを感じていたのでしょうが……だから、訊いてみたんです。貴方の求める世界にいるのは、誰ですか? と」

それはまだ、アルゾートが『反逆者』としてマルキオの部屋に侵入する前の話。
彼は、訊かれていたのだ。
ラクスに訊かれたことと、似たような質問を。


アルゾートの求める世界にいる者。それは――……




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