「……ミリアリアさん。せめて少し怒ってやってほしいんだけど……」
「何に?」
「いや、俺、すっごくけなされてるから……」
「シホさんにとっては、あんたは馬鹿でお邪魔虫なんだもん。仕方ないじゃない」

容赦なく、ミリアリアは言い放つ。
その上で彼女は、優しくシホにアドバイスをした。

「ディアッカの弱点は分からないですけど……要は、イザークさんと仲良くなりたいんですよね?」
「簡単に言ってしまえば、生涯の伴侶の座を狙ってるわ」
「なら、イザークさんの意識が、他に向けられないようにするとか、どうですか?」
「そんなこと出来るなら、とっくにやってるわ」
「押して駄目なら引いてみろって単語もありますよ?」
「押して駄目なら……」

シホはその言葉に興味を示した。
押して駄目なら引いてみろ。確かに今までのシホは、押しの一手だったが――

「駄目だわ。隊長から離れるなんて、私にはとても……」
「じゃあ……ヤキモチ妬かせてみるとか」
「ヤキモチって言っても……どうやって?」
「他の異性と仲良くするんですよ。ほら、ディアッカとか」
「こっちにも選ぶ権利があるわ」


〈いや、俺の方が選ぶ権利が――てゆーか、そこで何で、俺が引き合いに出されるんだろう……〉


口出しなどしたら、その後の仕打ちが怖いので、ディアッカは不満を心の中に留めた。
その背中は、至極寂しそうだ。

「アスラン・ザラは好みじゃないし、キラ・ヤマトになんか近付いたら、歌姫に何されるか分かったもんじゃないし……てことはやっぱり、彼しかないわね」

ぶつぶつ呟きながら、男の品定めをしていたシホは、手近な所に丁度良い「物件」を発見した。
ニヤリと笑うと、彼女は「物件」の方へ――

「……もしかして」

ミリアリアは、嫌な予感にさいなわれた。
彼女が足を進める方では、キラ、ラクス、イザーク、サイがかたまって夜空を見上げている。
というか、ディアッカ&アスランは論外、キラは無理となると、狙われる人間は一人しか居ない。

「今日はありがとね、眼鏡君。助かったわ」
「だから俺は……いや、もう良いです、眼鏡君で」

目をつけられたのは、サイ。
確かに彼なら、どこからも苦情は来そうにないが――

「ごめんなさいね、名前もちゃんと呼ばないで。えーと……」
「サイ、です」
「そうそう、サイ君。心から礼を言うわ」
「――……」

にっこり微笑むシホに、サイはちょっとだけ顔を赤らめる。
どきっともしてしまう。
けど、シホがちらりとイザークを見ると、彼は我関せず、といった感じで全く気にしていなくて……


〈……仕方ない。もう少し仲良し作戦続けるか……〉


愛しのイザークのハートを手に入れるための、涙ぐましい努力が始まった。




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