落ち込んでいるのはカガリだけではなかった。
ここにも一人――ミリアリアも。

「何に引っかかってんだ?」
「うん……」

彼女の横に立ち、訊くはディアッカ。ミリアリアは少し困ったように俯き……そして小さく、引っ掛かりをもらした。

「……なんか、上手くいかないな、って」
「全部うまく進む方が怖ぇんじゃねーの?」
「でも……なんか結構、自己嫌悪」
「なんでさ。お前、頑張ったじゃん」
「……頑張れば良いってものじゃないよ……」

言いながら、ミリアリアはその場にしゃがみ込んだ。

「今、らしくない言葉を聞いた気がする」
「だって、私……あの人の気持ち、全然考えてなかった」
「考えてたじゃん」
「考えてないよ」

彼女は言い切る。
二人が話しているのは、ディアッカがアルゾートを言葉で追い込んだ時のことだ。
彼を思い、彼女はディアッカに「やめて」と言った。

「あの人の気持ち、分かった気になってた」
「分かってたじゃん」
「分かってないよ」

かぶり振り、ミリアリアは続ける。

「私はあの人のこと、全然知らない。何も知らないで、想像だけで、知った気になってた」

何も知らない。
彼が、ミリアリアのことを何も知らないように。
彼女もあのアルゾートのことを、何も知らない。だから……分かろうとする気持ちさえ、空回りしてしまう。
知りたいと言う思いさえ、別の方向に働いてしまう。


「……お前は十分、あいつの気持ち、分かる立場にいると思うぞ」


大切な人を失う気持ちは、ミリアリアは痛いほど分かっている。
分かっているが――

「それでも……知らないの、私。どれだけ苦しんだか、どれだけ悲しんだか……だから、あんなこと言っちゃいけなかったのに……」


自分が、さも「全て分かってます」という言葉を――


「そんな、考え込むなよ」


ディアッカはしゃがみながら、彼女の頭に、ぽん、と手を置いた。

「あの時、お前……あいつのこと助けたかったんだろ?」
「……うん」




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